服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第629回
真夏の楽しみ

あぶらとりを使ったことがありますか。
脂取り。
小さな薄紙なのですが、吸脂性抜群で
いとも簡単に顔のあぶらを取ってくれる
便利なものです。

もともとは女性用で、
鼻の頭が光ったりするのをおさえるのに
重宝したのでしょう。
薄紙を化粧用に使うのは
いかにも日本的な発想ですが、
外国にも無いわけではありません。
たしかフランスに「ポンパドール」という
あぶらとりに似たものがあります。
ただしこれは紙の表面にパウダーがつけてあって、
むしろ化粧直し用かも知れません。
あぶらとり専用であろうと
化粧直し用であろうと、
むかしはふつう男はまず使わなかったものです。
が、今では堂々と男性用も並んでいますから、
時代は変るものであります。

ちょうど今ごろの俳句に、
あぶらとり一枚もらふ薄暑かな
というのがあります。
日野草城(1901〜1955年)の句です。
草城は東京、下町の生まれながら、
京大法学部を卒業した人物で、
生真面目な性格であったと思われます。
その草城さんがあぶらとりをもらいたくなるような薄暑、
というところでしょう。
つまり滑稽さがこの句の生命(いのち)なのです。
でも、今のように男性用あぶらとりが一般化すると、
この句の味わいも少し変ってくるのかも知れません。

時と場合によっては
私もあぶらとりを使うことがあります。
自分では気づかなくても、
実際に使ってみると、
紙が脂を吸ってくれることで、
あらためていかに脂ぎっていたかに
驚いてしまうものです。
たしかに簡単で、便利で、
一度使うと手離せなくなってしまいます。

けれども男はたいてい化粧しないわけですから、
多少時間があれば、
いっそ顔を洗うべきでしょう。
気分がリフレッシュ、眠気がさめる。
では顔を洗うのに石ケンをどうするか、
洗った後どうするか。
あれこれ用意するのもまた
夏の楽しみ方のひとつです。


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