服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第655回
私の好きなネクタイの結び方

今回は、日ごろご愛読下さっている読者の
shigeo kakudou 様から
「ネクタイの結び目の謎」として
前回、ご質問にご回答した御礼メールをいただきましたので、
そのご回答を掲載させていただきます。


■ shigeo kakudou 様にいただいたメール

出石先生へ。

早速のお返事どうもありがとうございます。
重ねてまたまた立派なコラムに仕上げて頂きまして
誠にありがとうございます。

デザイナーズもの等の特殊なものを除いて一般的には、
あらかじめそのタイにふさわしい結び方が
設定されている訳ではないということですね。

実は今回のテーマに取り上げさせて頂いた問題のネクタイは
以前に先生のコラムで拝見して
最近購入したばかりのフラードタイなのであります。
これはブルックスブラザーズ社製であり、
また私は日頃からプレーンノット派であるため、
当然にプレーンノットで締めてみたのですが、
どうも同社製のボタンダウンの襟の大きさに比べて
結び目の大きさが小さくなって違和感を覚え、
先生にご質問差し上げた次第です。

こういう場合、
先生の以前のコラムの後段にありましたように
大剣のバランスが良くなるよう小剣をかなり長めに締めてみると、
プレーンノットでも結び目と襟のバランスが
しっくり来たのかもしれません。
ネクタイに特定の結び目が決められておらず、
さまざまな結び方が想定されているのであれば、
一度この方法も試してみようかと思います。
おかげさまでおしゃれの幅が広がりそうな気がします。

残暑厳しい折、
お体に気をつけてお過ごしください。
また邱先生はじめスタッフの皆々様方にも
よろしくお伝えください。

まずは御礼まで。


■出石さんからのA(答え)

お便りありがとうございます。
小さなコラムですが、
少しでもお役に立てましたのなら、
うれしい限りです。

シャツのカラーと、ネクタイのノットは、
気になりはじめると際限がありません。
今、私たちはとりあえず
両方のバランスを考えています。
が、さらに一歩踏込んでみると、
角度の問題があります。
結び目はほぼ三角形ですね。
そして結び目が収まる左右の襟で
構成される空間もまた、
三角形に見えなくもありません。
このふたつの三角形は常に相似であるべきだ、
という考え方があります。
ちょっと数学のような話になってしまいます。

たしかに襟の開き具合をよく見ていると、
鋭角三角形もあれば鈍角三角形もあり、
また正三角形もあるようです。
そうするとネクタイの結び目もこれに合わせて、
それぞれの三角形に揃えるほうが良い、
と考えるわけです。

もちろんこれらもまた
最終的には両者のバランスを
重視してのことなのでしょう。
けれどもネクタイの結び目にはもうひとつ、
大切なことがあります。

それは結び目のすぐ下の、大剣の表情です。
結ぶということは、
一枚の布が狭められるわけです。
その一度狭められた大剣の上端が、
その下で大きく開いていることです。
これは着物の帯を想像すれば、
理解して頂けるのではないでしょうか。
つまり結ばれた帯が、
より立体的、より曲線的であるほど、美しい。
ネクタイの結び目も同じことです。
バランスも大切ですが、
三角形の結び目の下で、
まるでなにかの花びらでもあるかのように、
大きくふくらんで
大剣の流れにつながってゆくようであれば、
本当に上手に結ばれたネクタイだなあ、と思います。

しかしそのまた上というのもあるでしょう。
いつでも自分の好きな結び方ができる。
どんなシャツにも、どんなタイでも、
一定の、自分のやり方で結ぶ。
鏡がなくても、目をつぶっていても、楽々と結べる。
私もはやくそんなふうになりたいものです。


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