服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第679回
アーム・ホームにこそ秘密がある

アーム・ホールが気になったことがありますか。
アーム・ホールは両袖の上端と
肩の端とが出会うところ。
文字通り「腕の穴」であります。
上着を着る時、手を通してゆくところ。

実はアーム・ホールこそ、
上着のシルエットと着心地とを左右する
要(かなめ)の中の要(かなめ)と言って良いでしょう。
アーム・ホールの微妙な位置と角度によって、
服の印象は大きく変ってくるのです。
ふだんはあまり気にならない場所ですが、
「このアーム・ホールの位置がねえ・・・」
などと言いはじめると、
よほどの洋服通ということになります。

大きく分けて、
広いアーム・ホールと
狭いアーム・ホールとがあります。
理想をいえば洋服とはアーム・ホールが狭いほど、
良い服であり、美しい服なのです。
より身体にフィットし、肩線もより高く、
より美しく構成されるからです。
また狭いアーム・ホールほど腕が動かしやすく、
シルエットに乱れが生じにくいのです。
本当に良いことばかりですが、
現実には広いアーム・ホールの服が
たいへんに多い。

では、どうしてそうなのか。
これは実際に我われが服を着る時、
一瞬、広いアーム・ホールのほうが
着やすいと感じてしまうからです。
たとえば洋服を仕立てる場合でも、
客のほうで「もう少し大きくしてくれ」
と注文をつけることが繰返されてきました。
その結果、広い、大きいアーム・ホールの服が
圧倒的に多くなっているのです。
もちろん時代の好みということもあるでしょう。

少し逆説的な表現になりますが、
腕を通しにくいと感じるのは、
良い上着であることの証明なのです。―
ここからいったい何が言いたいのか。
良い服とは、良い着こなしとは
ほんのわずかな窮屈と忍耐の上にこそ、
本当のおしゃれは完成するのです。

いずれにしてもアーム・ホールのような
目立たない場所に目が行くようになったなら、
おしゃれのステップが
一段上ったことになります。


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