服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第680
心に火をつける珈琲

カフェ・ブリロを知っていますか。
たいていは「カフェ・ブリュロ」と言うようですが、
正しくは“カフェ・ブリロ”でしょう。
これはどうも
フランス語がそのままに英語化した言葉だと思われます。
“ブリュロ”brulotはもともと「火船」のことです。
むかし海戦で、相手の船に火を放つ戦術の意味でした。
今では角砂糖にウィスキィを含ませて
炎を燃えさせる場合にも、
“ブリロ”が使われます。

さて、カフェ・ブリロ。
これは二十世紀のはじめ、
フランスの社交界で流行したことのある、
実にエレガントなコーヒーの飲み方なのです。
優雅であるにもかかわらず、
火船(ブリロ)と勇ましい名前がついているところが、
面白いではありませんか。
コーヒーの飲み方は星の数ほどありますが、
これほど手間のかかる、
これほどおしゃれなコーヒーは他にはないでしょう。

まず必要なものは保温器と小鍋。
小鍋に入れた濃いコーヒーを
ホット・プレートの上でかく拌しながら作るからです。
あるいは湯煎(ゆせん)する方法もあります。
コーヒーを淹れるのがひとつの演出ですから、
好みの容器を用意しましょう。
小鍋のなかにコーヒー、シナモン・スティック、
クローブの実、オレンジ・ピール一片、
レモン・ピール一片、
小量の砂糖、小カップ一杯のコニャックを入れて、
ゆっくりと温めながら、かきまぜてゆく。
そして頃合を見て、
小匙にコニャック一杯を入れて、
静かに火をつけて燃やし、
最後にこのスプーンでかきまわして、完成。

どうもこれが正しい、
古典的なカフェ・ブリロの淹れ方のようです。
日本でカフェ・ロイヤルと呼ばれる方法にも似ていますね。
やや暗くした部屋でこれをやると、
気分が落着いて、美しい。
ひとりよりも二人、
二人よりも三人で飲みたくなるかも知れません。
そして心と身体が温まること、
間違いありません。
たしかに手順が面倒かも知れませんが、
一杯のコーヒーが落込んだ自分を
救ってくれることもあるのです。


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