服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第684回
これがおしゃれの出発点

クルマはお好きですか。
だいたい男というものは、動くものが好きですね。
もちろん自動車もそのひとつ。
私自身は国産のバンでも一台あればいいなあ、
と思っている位のものです。
とうの昔に車趣味を卒業したつもりなのです。

たとえば1920年代のパリで、
薩摩治郎八は純銀製のクライスラーを走らせたという。
薩摩治郎八はコナン・ドイルに会い、
アラビアのロレンスに会い、
イサドラ・ダンカンと遊んだというケタ外れの人物。
社交生活に費った金が
今の金額にすれば数百億円というのですから、
ただただ驚くばかり。
でも自動車の話は単なる伝説だと思っていたのですが。

「私が妻に造ってやった特製の自動車は、
 純銀の車体に淡紫の塗りで、
 運転手の制服は銀ねずみに純金の定紋・・・」
(薩摩治郎八著「せ・し・ぼん」)

自分で書いているのですから、本当なのでしょう。
しかもこの車はバロン・サツマのものではなく、
マダム・サツマのものであった。
その後、カンヌの自動車コンテストで、
スイス王家の車を抜いて特別大賞に選ばれたとのこと。
古き良き時代の物語でもあるでしょう。
が、こんな話を聞くと、
自動車道楽を卒業したくもなってきます。

しかし本当のおしゃれはここからはじまるのです。
見極めと言いましょうか、諦観と言いましょうか。
俗にピンからキリまで。
そしてピンの上にまたピンがあるのです。
そのピンのピンを知った上で、
さて自分はどうするか。
ピンのピンを知らないで、
自分の着ているものが最高と思えるのも
幸福(しあわせ)かも知れません。
でも、少なくともおしゃれに深味がないのです。

「カシミアも上を見ればキリがないが、
私は色と着こなしで、自分らしく・・・」と思う。
これが実はおしゃれの出発点なのです。
もしかすれば最上ではないかも知れないから、
智恵と工夫をこらしてみよう。―
ここから着こなしに落着きと謙虚さがそなわるのです。


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