服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第719回
シャンパンから生まれた万年筆

クリュッグという名の万年筆を知っていますか。
「クリュッグは万年筆ではなくて、シャンパンだろ」
とおっしゃる方もいるでしょう。
でも、これはれっきとした万年筆で、
飲むものではなく、書くものなのです。

シャンパンをつくるには
たいへんな手間と作業を要するのだそうです。
よく知られているところでは、
“デゴルジュマン”と呼ばれるおり引きをする。
基本的には壜内発酵で、
1本1本手でまわしてゆくのですから、
たしかに手がかかっているわけです。

さて、シャンパンづくりの過程で、
樫の樽で貯蔵することがあるとのこと。
この木樽に使われていたオークを
万年筆の軸にしようと考えたのが、オマス。
それがクリュッグのシャンパンであったところから
「クリュッグ・バイ・オマス」という万年筆なのです。

つまり万年筆をそっくり
シャンパンのオーク材で包んでいるわけです。
軸もキャップも木材。
一瞬、小さな葉巻かな、と思うかも知れません。
ただし中身はもちろん万年筆で、
ペン先は18Kゴールドに
プラチナ・コーティングを施しています。
太さは「F」と「M」の2種類があります。
インクはピストン吸入式です。
1本、126,000円ですから、
私にはちょっと高嶺の花ですが、
うーん、なんだか握り心地が良さそうだなあ、
とよだれを垂らしているところなのです。

オマスは1917年、
イタリアはボローニャではじまった万年筆メーカーで、
ユニイクな発想の万年筆を得意としています。
たとえば1926年に発表した
「ドクターズペン」はその一例でしょう。
これは万年筆のなかに体温計を組込んであり、
体温を測ると同時に
カルテに記入できるよう考えられていたのです。

そのオマスにしてみれば、
木樽を軸に使うなど朝めし前なのでしょう。
でも、静かに匂いを嗅ぐと、
遠いところからシャンパンの香りが
漂ってくるのでしょうか。
万年筆で日記を書きながら、
シャンパンを飲みたくなったら、
まあ、それも良いかも知れませんね。


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