服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第771回
昭和12年 美の世界

昭和12年がどんな年であったか、
知っていますか。
もちろん私は知りません。
第一、生まれてもいないのですから、
分るはずがありません。
今からざっと70年ほど前。
むろん第二次大戦前のことであります。

最近、三省堂の『婦人家庭百科辞典』が、
ちくま学芸文庫として複刻された。
今、これを眺めているのですが、実に面白い。
この百科事典は昭和12年4月15日に初版が出て、
すぐに版を重ねていますから、
当時人気があったのでしょう。
図書館でもなかなかお目にかかれない本となっていましたから、
今回の複刻はうれしい。
正しくは「縮刷複製」というのだそうですが。

たとえば「帽子」の項目を見てみましょうか。
まず帽子の総論が述べられて、
次にそれぞれの帽子についての説明がある。
<鳥打帽。
 これは本来スポーツ用であるが、
 我国では小店員達の日常帽となっている。
 生地は冬向は主として羅紗、
 夏向きはセル、ポーラー、麻、リンネル・・・>

どうです、なかなか興味深いではありませんか。
今、引用にあたっては現代仮名づかいに変えましたが、
原文は当然、旧漢字、旧仮名が使われています。
これもちょっとレトロな感覚があって楽しいものです。
つまり私にとっては、昭和12年(1937年)頃、
どんなファッション観であったかを知る上で、
貴重な資料なのです。

そしてもうひとつ
「婦人家庭百科辞典」ですから、
食材や料理法についてもかなり詳しいのです。
現代のグルメたちにとっても
必見の書ではないでしょうか。
本来であれば、重くてかさばる辞典が
こんなふうに文庫化されるのは有難いことです。

ところで明治のおわりから
大正のはじめにかけて出版された
『日本百科大辞典』があります。
これも三省堂で、
日本語で書かれた百科事典としては、
これが最良、最大のものだと私は思っています。
今はほとんど入手困難。
これもひとつ複刻してもらえるとうれしいのですが。


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