服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第805回
幸福を招く1本のネクタイ

朝、ネクタイを結ぶのに何分かかりますか。
朝、ネクタイを選ぶのに何分かかりますか。
ネクタイは素速く選び、
ゆっくり丁寧に結ぶのが理想だと思います。

では、ネクタイを素早く選ぶには
どうすれば良いか。
それは自分のネクタイを
なにかひとつ決めておくことです。
たとえば私ならヴァイオレットの無地のネクタイ
ということになるでしょう。
もちろん同じ傾向、同じテーマのネクタイが
何本あっても良いのです。
これは確実に、選択の時間が短くなります。

いつ、どんな服装にも合わせられるものとしては、
シルヴァー・グレイのタイがあります。
これなら紺系統にもグレイ系統、
それから黒のスーツにもよく合います。
またスーツばかりでなく
ブレザーのような
スポーティーな服装に結ぶことができます。

仮に「私のテーマはシルヴァー・グレイのネクタイだ」
と決心したとしましょう。
すると1本のネクタイを買うのに、
この上なく慎重になるはずです。
充分に吟味する。
その結果、ひと口にシルヴァー・グレイといっても、
実に様ざまな色調があることに気づく。
単に色だけでなく、
ネクタイ地の材質や織り方まで
詳しくなるでしょう。

趣味の良し悪しとは、
このようにして磨かれるのではないでしょうか。
つまり自分の鑑識眼を高めるためにも、
なにかひとつのテーマに絞ったほうが良いと思います。
たった1本のネクタイからでも、
着こなし上手への道は拓(ひら)かれるのです。

でも、それはネクタイに限ったことではありません。
シャツでもスーツでも同じことが言えるでしょう。
「私の上着」「いつもの上着」を
なにかひとつ持っている人は、
必ずおしゃれなんです。
なにを、どう着ようかと、迷うことがない。
堂々と、自信を持って、
「これが私のジャケットです」と言える人。
それは言い換えれば、
「これが私です」というメッセージでもあるのです。
大人になったなら、本当はもう迷いたくない。
迷わないことこそ、幸福な人生ではないでしょうか。


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