服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第838回
シャツを自分の肌にするために

「仕立ておろし」は
今ではもう死語なのでしょうか。
むかしは俗に「お初(はつ)」とか
「おニュウ」などと言ったりしたものですが。
要するに新しい服をはじめて着ることですね。

純粋におしゃれの立場からすれば、
新しい服であればこそ、
新しいとは感じさせないで着ることが大切です。
かつて英国貴族の洒落者は、
召使いに自分とよく似た体型の男を選んだそうです。
もちろん仕立ておろしの服を
しばらく着せておくために。
こうして身体になじんだ頃に、
やっと自分で着たのです。

まさか、とおっしゃるかも知れませんが、
日本でもそれに似たことはあったのです。
粋人が新しい着物を仕立てたときは、
それをひと晩寝巻にする。
それからあらためて手を入れてから、
外出着にしたのです。

新しさを感じさせずに着ることは、
それほど大切なことなのです。
ポロ・シャツ1枚とってもそうです。
ポロ・シャツを買う。
袋を開けて、タグを取って、着る。
これは野暮というものです。
なぜならシャツはシャツ、身体は身体で、
両者一体とはならないからです。
唯一の例外は
何度もお話しているように、Tシャツ。
Tシャツと浴衣だけは
新品を新品として外出着に出来る。
裏を返せば、一度洗ったものは
外出着にはしないのが、粋。

さて、いったい何が言いたいのか。
新しいワイシャツをどう着るか。
袋を開けて、芯を取り、クリップを外して着る。
どうか、お願いですから、
これだけはやめて下さい。
「私はシャツに無関心です」と
広告するようなものです。
せめてアイロンで畳み
皺を伸ばしてから、袖を通す。

もちろん理想をいえば
新品のシャツは一度水を通し、
あらためて自分でしなやかにプレスをしてから、着る。
次善の策はクリーニング店に出すことでしょう。
が、これも同じく畳み皺が目立つようでは困ります。
洗濯から戻ってきたものに、
ふたたびアイロンが必要になってしまう。
もちろん畳まずにハンガーに掛けてもらうのも
ひとつの方法です。
シャツは第二の肌です。
肌をより自然に見せるのは当然のことでしょう。


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