服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第860回
マドレーン、マドレーン、まどろーむ

ペイロオを知っていますか。
マドレーン・ペイロオを。
私自身はまったく知識がありません。
もしご存じの方がいらしたら、ぜひ教えて下さい。
第一、Madeleine Peyroux を
マドレーン・ペイロオと呼んでいいかどうかさえ、
知らないのです。

過日、さるレストランで
スプマンテの杯を傾けていると、
低く静かにジャズ・ヴォーカルが流れている。
懐かしいような、聴いたことがないような。
で、店の人に訊いてみると、ペイロオだったのです。
彼女は今、私の隣りで
『ケアレス・ラヴ』を唄っています。

ハスキーで、少年のような声、
純で、素朴そのものの唄い方。
彼女の奏でるアコースティック・ギターの野性味も
魅力のひとつ。
とにかく聴いていて、
これほどに心を和(なご)ませてくれる
ジャズ・ヴォーカルは
ちょっと珍しいのではないでしょうか。
心のしこりをゆっくりと解きほぐしてくれる。
少し暗くした部屋で、コニャックを片手に、
ペイロオを聴いていると、
完璧にリラックスできるでしょう。

服の着方でいえば、
本来ドレス・ダウンの上手な人ほど、
ドレス・アップが様(さま)になるものです。
人間のエネルギーの総和として
過不足がないからです。
逆にいえば、ドレス・アップを美しく仕上げるためには、
日頃、存分にカジュアルを極めておく必要があるのです。
この両者は一対の両輪なのですから。

まったく同じことが人の生き方についても
言えるのではないでしょうか。
いざという時にテンションを
その頂点にまで高められる人は、
ふだんリラックスの極のなかで遊んでいる人。
ちょうど百と零とがあるからこそ、
平均を保つことができるように。
緊張に対する、緩和。光と陰(かげ)。

人生を最高に生きる人こそ、
リラクゼイション術の達人ではないかと思います。
もちろんその人なりの方法を持っているのでしょう。
そして今、私はゆっくりとコニャックをなめながら、
心の中にマドレーンがしみ込んでゆくのを
味わっているのです。


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