服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第861回
心に扇の風を送りましょう

扇(おうぎ)と
扇子(せんす)の違いを知っていますか。
「扇」は日本語、
「扇子」はもともと中国語という違いがあります。

扇の古い訓み方は「あふぎ」で
これは「煽(あお)ぐもの」という意味から来ています。
さらに古くは「かわほり」と言いました。
かわほりとは今の蝙蝠(こうもり)のことです。
こうもりは羽根を開いたり閉じたりする。
あの姿を見て「かわほり」(扇)が考案されたからです。
つまり扇はもともと日本で発明されたものなのです。

むかしむかし日本人が
今の中国へ仏教の勉強に行く。
この時、一種の土産物として
扇を持って行った。
こうして日本の扇が中国でも知られるようになる。
それは北宋(ほくそう)
(960〜1127年)の時代であったろうと、
考えられています。
日本では平安時代です。
ところが明(みん)の時代になって、
中国でも扇が作られるようになる。
これを中国語で「扇子」と言ったのです。

その頃の扇は主として
骨(ほね)の片面に紙を張った。
が、中国の「扇子」は骨の両面に紙を張った。
これが日本に逆輸入されて、「唐扇」と言った。
唐の扇であるから、
外国語で「扇子」と呼ぶほうが
しゃれてもいたのでしょう。
こうしていつの間にか
「扇子」も日本語になったのです。

夏の着物を着た時に
ぜひ持ちたいのが、扇子。
帯に挿したり、手に持ったり、
実におしゃれな小道具になってくれます。
いや、帯とは扇を挿すためにあるのではないか、
と思えてくるほどです。

けれどもスーツに、
洋装に扇を持ってはいけない、
と言うつもりはありません。
ただしベルトに挿したのでは
様(さま)にならないのが、残念でありますが。
さりとてハンカチのように
袖の中に入れておくこともできない。
やはり内ポケットでしょうか。

扇(携帯用送風器)を持っているよ、
という心の余裕(よゆう)が涼しさを呼んでくれる。
扇で扇風機のように風を送ろうというのは、
粋なことではありませんよ。


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