服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第863回
おしゃれの引き潮と満ち潮

今回は、日ごろご愛読下さっている読者の
Y.U 様から
第855回 いちばんカッコイイ夏姿について
感想メールをいただきましたので
そのご回答を掲載させていただきます。


■ Y.U 様にいただいたメール
件名:いちばんカッコイイ夏姿

出石様、いろいろな処で
クールビズの特集を見聞きいたします。

経済効果の話からハウツーまで、
私も以前、夏の履き物について、
メールしたことがあります。
今日もいつものネットやメールをチェックしていたら
読みそびれた24日のメールに、
欧州、英国もノーネクタイが増えている様子が
書かれておりました。
(ノーネクタイという流行をひろめはじまたのは、
 わたくしが思うには
 ファッションデザイナーのトム・フォードではないか。)や、
クールビズは欧州の男性ファッション誌を
参考にすればとも書かれております。

出石様が読まれる、雑誌、書籍なども
もっと知り得たら幸いです。
出石様の著作ではネクタイは大変重要なアイテムですね。

私の読んだメールは下記のとうりです。
送信者 info@jmm.co.jp
日時 2005年6月24日16:38
「クールビズなんてこわくない」オランダハーグより 第118回
http://ryumurakami.jmm.co.jp
村上 龍さん主催のメールマガジンであります。
  
今、思い出しましたが。  
日本代表サッカーチームが成田に帰国したとき
サッカーボール柄のネクタイをしめていましたが、
中田だけは白いシャツ(ポロシャツかな?)に
ノーネクタイでしたね、
ジャケットはお揃いのようでしたが。
なぜか凄みを感じました。

Y.U


■出石さんからのA(答え)

ご丁寧にもお便りを下さり
ありがとうございます。
また日頃からお目通し下さっていることにも
重ねて御礼を申上げます。
春様の『オランダ・ハーグより』も
興味深く拝読致しました。
感謝感激です。
スペインには“アバミーコ・デ・カバレロ”
(紳士の扇子)があることなどをはじめとして、
大いに勉強させて頂くことができました。

日本がそれまでの和服に代えて、
洋服を採り入れるようになったのは、
明治4年のことです。
この年の9月4日に
明治天皇の「服装勅諭」が出される。
その冒頭部分は次の通りです。

<朕惟うに風俗なるもの
  移換をもって時のよろしきに随い・・・>

つまり、風俗というものは、
時代背景に合わせて変るものだ、
と言っているわけです。
私はこれは名文であると同時に、
名論だと思います。
ただし<時の時のよろしきに随い>ということが、
少し難しいのかも知れませんが。

今、日本だけでなく世界でも
「クール・ビズ」が話題になっているのは、
現代の時代背景を抜きには考えられないのです。
要するに、そういう時期が来ているのでしょう。
多くの人の心の奥で、
「ネクタイを外そう」
という囁きが響きはじめているのです。
もしかすれば「クール・ビズ」は大義名分であって、
その本心は
「ノオ・ネクタイの、よりカジュアルな服装でありたい」
ということなのかも知れません。

現在のネクタイ姿が定着してから
ざっと100年ですから、
たしかにひとつの節目であるとは言えるでしょう。
時代環境のなかで、
男の服がいささか旧式になっているのです。
さて、私の命題はおしゃれということにあります。
ネクタイを外す時、
はっきりと強い主張をもって行う。
これがノオ・ネクタイ姿が美しく見えるコツなのです。

けれども引き潮の極には
満ち潮がはじまるわけで、
ノオ・ネクタイが定着すると、
今度はやがてネクタイがクラシックで、
美しいアクセサリーに見えてくることもあるのです。


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