服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第910回
小さな宝物の話

ネクタイ・ピンを使うことがありますか。
私もまたつい「ネクタイ・ピン」と
言ってしまうのですが、
これは本当はたいへん古いアクセサリーなのです。
むかしの男たちは
長く、柔らかいクラヴァット
(ネクタイの元祖)を留めるのに、
17世紀頃からすでに使っていた。
この“ネクタイ・ピン”は装飾的で、
針の部分が約10センチ位の長いものです。

つまり正しくは
“タイ・タック”と言うべきでしょう。
これは針の長さ
ざっと1センチほどの短いものです。
長いのが“ネクタイ・ピン”で、
短いのが“タイ・タック”。
ところが言葉とはややこしいもので、
ファッション用語としては
“タイ・ピン”の別名があります。
要するに“ネクタイ・ピン”は長く、
“タイ・ピン”は短くて、
“タイ・タック”とほぼ同じ意味。

こみ入った前置きはさておき、
タイ・タック(タイ・ピン)の話。
最近ではごく無造作に
ネクタイを垂らしておくのが主流で、
タイ・タックばかりでなく、
タイ・ホルダー(ネクタイ留め)の類いは
使わないことが多い。
それで引出しの奥で
半ば忘れ去られていることが多いようです。

でも、タイ・タックの使い方は
ちゃんとあります。
一種のラペル・ピンとして使うのです。
上着のラペルに小さな襟元がありますね。
このボタン・ホールに
タイ・タックをあしらってみるのです。

もちろんシルヴァーやゴールドの
タイ・ピンということもあるでしょう。
それは小さくて、シンプルで、
ラペル・ピンとしては
この上なく上品な印象を与えるものです。
ちょっとしたパーティーなどの折に
ぜひ試してみて下さい。

ことに素晴らしいと思うのは、
クラシックなタイ・タック。
ひと時代前には古くさいと思われた
さんごやべっ甲のラペル・ピン(実はタイ・タック)を
さりげなくあしらうのは粋なものです。
お兄さんやお父さん、お祖父さんの、
タンスのなかを捜してみると、
たぶん宝物が見つかるはずです。


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