服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第913回
いつも右上りのおしゃれを

縞柄のネクタイはお好きですか。
ストライプに限らず、
なにかひとつの古典柄のなかで
自分なりのテーマを決めておくのは、
おしゃれなことだと思います。
たとえば、W・チャーチルが
いつも水玉の蝶ネクタイを結んでいたように。

たとえばレジメンタル・ストライプに
右上りの縞と左上りの縞とがあるのは、
ご存じの通りです。
もともとネクタイ用の生地では、
縞はタテに表現されます。
もっとも見方によってはヨコ縞ですが。
つまり生地自体が最初から斜めの縞に
織られるわけではありません。

このタテ縞(あるいはヨコ縞)を
バイヤス地に裁つことで、
あの斜めの縞が生まれるのです。
そのバイヤスの取り方によって、
右上りにも左上りにも自由に選べるわけです。
そして「右上り」のことを
“ハイ・ライト・ロウ・レフト”と呼びます。
「右に高く、左に低い縞」というわけですね。
同じように「左上り」は
“ハイ・レフト・ロウ・ライト”の呼び名があります。

アメリカでは主として前者が多く、
イギリスやヨーロッパでは
どちらかといえば後者が多い。
1919年、英国皇太子が訪米の折、
縞柄のタイを結んでいて、
この後アメリカで
レジメンタル・ストライプが流行するのです。

一般に人間の眼には
「左上り」よりも「右上り」のほうが
心地良いとされます。
では、アメリカに較べて
はるかに歴史の古いイギリスで、
なぜ「左上り」の縞が多いのか。
これはどの部分の縞を見るのか、
という問題があります。

20世紀はじめの男の服は
かなりVゾーンが狭い。
その結果、大剣部分より結び目に眼がゆく。
左上りの縞なら、結び目はふつう
「右上り」になるわけで、
このほうが人間の眼にはより自然なのです。
一方、Vゾーンの深さやチョッキの無有で、
大剣部分が注目される時には、
「右上り」が好都合ということになります。

いずれにしても縞も右上り、
心も右上りと考えるほうが、
より幸福でいられるのではないでしょうか。


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