服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第951回
金色のコーデュロイ・シャツ

コーデュロイはお好きですか。
別に「コール天」とも言いますね。
むかしはビロードのことを
「天鷲絨(てんがじゅう)」の名で呼んだ。
その意味は天に住む鳥の羽根のように美しい生地、
ということであったのです。
異国からはじめてベルベットを見た日本人の驚きが
ここにあります。
それはともかく「コール天」は
天鷲絨の「天」なのです。
生地の持つその美しさと光沢とが
なによりの生命ということになります。

ところでこの間、散歩の途中で
それはそれは美事な
コーデュロイのスポーツ・シャツを発見。
まさに「天鷲絨」を思わせるすばらしさ。
ピン・ウエール・コーデュロイ
(細畝コール天)なのですが、
あまりに繊細な畝なので、
一瞬、ベルベットの一種だろうかと、思ったほどです。
しかも色がまたすばらしい。
イエローとマスタードの
中間といったところでしょうか。
あるいは金色に輝く
オレンジの色というべきでしょうか。

イタリアはピエモンテ、ビエラという町の
ジャン・バスタという
シャツ・メーカーのものだそうです。
襟はボタン・ダウン型で34,000円。
銀座の「タナカ」(TEL:3571-7859)という
洋品店で見つけました。
この洋品店自身が、実に落着いた味わいがあって、
いかにも大人の男が好みそうな品々が揃っている。
店主自体もそんな感じで、
散歩の途中でおしゃべりするにも恰好の場所。
今や骨董品というべき店です。

ツイードの替上着を羽織ることはよくあります。
けれどもそれに合わせるシャツは意外に難しい。
ふつうのスポーツ・シャツでは
ジャケットに負けてしまう。
そんな時にこの天鷲絨の輝く
オレンジのスポーツ・シャツは最適です。
ベージュやライト・ブラウン、ダーク・ブラウン、
あるいはグリーン系にもよくマッチする色です。

そしてまた極上のスエード・ジャケットにも
このオレンジ色のスポーツ・シャツは合いそうです。
シャツからはじまる着こなしというのも
たしかにあるのです。


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