服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第952回
貴族的なレッド・ヴェスト

ピンク・コートを知っていますか。
これはイギリスの伝統的な
ハンティング・ウェアの別名です。
そのデザインは
丈の短いモーニング・コートに似ています。
むかしの英国貴族はこのような服装で、
たとえばフォックス・ハンティングなどを
楽しんだものです。

ただし本来は真紅の狩猟服なのですが、
長い間の風雨にさらされて色あせてしまった。
だから“ピンク・コート”と呼ぶわけです。
その時代の染色は今と違って、
変色しやすかったからでもあります。
ただし“ピンク・コート”には、
きのうきょうの新参者ではない、
という経験者ならではの
強い誇りがこめられているのです。

ごく単純に申しますと、
この場合はレッドよりも
色あせたピンクのほうに値打がある、
ということになります。
ところで今の時代に
ピンク・コートを街で着ることは難しい。
けれどもハンティング・ヴェストなら
充分活用できるでしょう。

つまりかつてのイギリス貴族は、
ピンク・コートの下に何を着ていたのか。
それは同じく真紅のハンティング・ヴェスト。
まず第一の特徴は
メタル・ボタンが付いていること。
第二に、必ずフラップ・ポケットが付いていること。
これは戸外での着用を考えているからです。
それ以外にも、時としてラペル付きであったり、
ウエイスト・シーム(腰縫目)入りの
デザインであったりすることもあります。

色としては他に
グリーンやイエローということもあります。
それはともかく、ツイードやスエードなどの
カントリー・ジャケットには最適のものでしょう。
ウールのスポーツ・シャツに
ニット・タイなどを結んだりするわけです。
変化球としては
タートル・ネック・スェーターの上に
重ねる方法もあるでしょう。

ヴェストであろうとなかろうと、
真紅を着るには多少の勇気を必要とします。
けれどもピンク・コートを、
伝統的なハンティング・ウェアのひとつだと考えることで、
きっと親友になってくれるはずです。


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