服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第995回
美しい服装は美しい仕草から

インバネスを知っていますか。
別名を「とんび」とも言ったものです。
黒くて鳥のようにも見えたからでしょう。
もともとはイギリスの“インヴァネス”ですが、
これが明治のはじめ日本に伝えられて、
大流行となったのです。
どうして大流行になったのか。
ひとつにはそれ以前に
和服の上に重ねるコートが無かったからです。
そしてもうひとつの理由は、
インバネスには袖がなく、
和服の袂が邪魔にならずに
羽織ることができたからだと思います。

インバネスは今でも
古着屋などで探すことができるでしょう。
そしてちょっとしたシャーロック・ホームズの気分を
味わえるかも知れません。
ホームズのそれはツイード製ですが、
形としてはそれほど大きく変るわけではありません。
インバネスはもともとは
スコットランドでの旅行用外套だったのです。

インバネスはほんの一例ですが、
20世紀以降、私たちがあまり着なくなったものに
ケープがあります。
たとえば19世紀、
正統的なフォーマル・ウェアの上には
たいていドレス・ケープを羽織ったものです。
一方、マカロニ・ウェスタンのガンマンたちも、
やはり一種のケープを愛用しているではありませんか。

ケープとコートの違い。
それは仕草(しぐさ)の違いでもあります。
ケープは肩の動かし方、
腕の動かし方、手の動かし方、
簡単にシルエットが変化する。
身近なことを言いますと、
長いケープで階段を登ろうとする時、
少し裾をたくし上げないと、
引きずってしまいます。
では、どこをどうたくし上げれば、
より美しいシルエットになるのか。―
つまりケープを着こなすことは、
美しい仕草の勉強でもあり、
美しいシルエットの勉強でもあります。

でも、よく考えてみれば、
シャツでも、スェーターでも、
仕草によってごくわずか
美しくなったりそうでなかったりするわけです。
が、あまりに少しであるから
気づきにくいだけのことでしょう。
一度ケープを着たつもりになって、
仕草と美しさの関係を考えてみましょう。


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