門上 武司

「一杯の珈琲から一皿の満足まで」
  門上武司の食コラム

第7回
南青山で最高のひとときを

東京・青山通りに面した小さなビルの階段を上がる。
カウンターのどこに座り、何番の珈琲を頼むのかを決める。
カウンターの左端で2番の珈琲である。

ここ「大坊珈琲店」の注文はすべて番号で行われる。
珈琲豆と抽出の量が番号で示されている。

1番は豆が30gで抽出量は100cc、
2番は25gで100cc、3番は20gで100cc、
4番は25gで50cc、5番は15gで150cc。
左端を選ぶのは店主・大坊勝次さんが
目の前で珈琲を淹れるからだ。

ネルドリップのスタイル。
一般的には左手にネルドリップ、右手にケトルを持ち、
湯を注ぐ右手を動かすのだが、大坊さんは違う。
右手はそのまま、左手を微かに回したり上下させる。

もちろん右手は抽出量を調整するために
わずかながら上下の動きはあるが。

珈琲の豆は見ているうちに膨らみ、
芳香を放ち始めるのだ。
35年以上も前にこの姿を見た驚きと感動は今も忘れないし、
見るたびにその思いは蘇ってくる。

大坊さんは、一貫して手廻し
ロースターで少量ずつ自家焙煎している。

それもかなりの深煎りである。
低温でゆっくり抽出するので、
苦味はもちろん感じるのだが、その余韻が甘みとなってゆく。
それが大坊さんの淹れる一杯の魅力である。
僕が深煎りの珈琲に目覚めたのは、この一杯からといってもよい。

またここの本棚を見るのも愉しい。
店内焙煎のお陰で、本棚に並ぶ本や
雑誌の背表紙は茶色に染まっているものが多い。

早川ミステリーや池波正太郎さんの小説、
また美術展の図版など。
大坊さんがお気に入りの作家の連載を
一冊だけの本に仕立てたものもある。
それを読みながら珈琲を飲むのも、
大坊さんの思いを知るようで興味深いものがある。

静かにモダンジャズが流れ、煙草の煙がたなびく。
大坊さんが、自らの思いを曲げることなくずっと続けてきた。
そこで過ごす時間は僕にとってとても貴重で、
珈琲とはなにかを考えると同時に仕事とはなにか、
思いをめぐらすこともある。


【本日の店舗】
「大坊珈琲店」
 東京都港区南青山3-13-20 2F
 03-3403-7155


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2011年3月1(火)

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