門上 武司

「一杯の珈琲から一皿の満足まで」
  門上武司の食コラム

第44回
鮨 まつもと

寿司の世界で江戸前という言葉がある。
関西ではにぎりのことを江戸前と読んでいた時期が長く続いていた。
ところがここ10年ぐらいだろうか。
づけやコハダ、煮はまぐりというネタがポピュラーになり、
「仕事をしてある」という言葉を
頻繁に寿司屋で耳にするようになった。

関西にも江戸前を標榜する寿司屋が増えた。
東京の名店を食べ歩き、独自の勉強方法でそれを習得したり、
一時東京の店で修業する職人など千差万別である。

ここ祇園の「鮨 まつもと」は異色の一軒だ。
というのは主の松本大典さんは、
東京・新橋の「新ばし しみづ」という店で永年働き、
縁もゆかりもない京都、それも祇園で暖簾を掲げたのである。
そして一切、京都いうか関西の嗜好に合わせることなく、
自分が学び信じる江戸前の酢加減、
寿司飯の温度などを貫き通している。

「自分が勉強したこと以外の仕事をすると、ぶれてきます。
少しずつ変化しているのかもしれませんが、
それを意識したことはありません」と。

まず店内が清潔である。魚の匂いがしない。
そして松本さんの握る姿が美しい。
リズム感が一定している。腰が決まり上半身の安定感がある。
イカから始まった。イカの甘みと寿司飯の加減が絶妙。

コハダやアジと攻めてきた。

カツオもいい。
ぐじには軽く炙りを加える。

蒸しアワビの香りに魅了される。
穴子も鋭く舌を覆う。
かんぴょう巻きで締める。

昼の寿司としては満足感が大きい。
10貫で5000円のおまかせに、少し追加をした。

僕がいつも驚くのは山葵の素晴らしさである。
辛みが柔らかく、香りも甘さも表現してくれる。

永年「新ばし しみづ」に通い詰めていた常連さんと
偶然東京で会ったとき
「『しみづ』の山葵、
松本くんがすっていたときは、山葵が喜んでいたよ。
いまはちょっと違うね」と話したことがある。
その台詞が真実だと、今回も改めて認識した次第だ。


【本日の店舗】
「鮨 まつもと」
 京都市東山区祇園町南側570-123
 075-531-2031


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2011年7月8日(金)

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