門上 武司

「一杯の珈琲から一皿の満足まで」
  門上武司の食コラム

第51回
珈琲美美

福岡というか博多には好きな珈琲店が多い。
その一軒「珈琲美美」は僕にとって特別な店である。


移転する前の店に初めて訪れたのは、
たしか10年近く前のことだ。
旅取材の仕事が増え、
九州各地を巡る途中、「美美」の扉を開いた。
静謐な空気が流れ、珈琲の香ばしくも甘い香りが漂っていた。

先輩から「『美美』のモカは日本一」と聞いていた。
小さなカウンターに座り迷うことなくモカを注文した。

ご主人の森光宗男さんは、
京都・「開化堂」の缶から必要分だけ豆を取り出し、
ハンドピックする。
数粒をミルに入れる
「前の豆の香りが残っているといけませんから」と
穏やかな口調で語ってくれた。
その儀式が終わると再び豆を挽きネルドリップへ移す。
そこからの動作が凄かった。
腰が入り、ケトルから糸のような細い湯がポトポト落ちる。

豆は緩やかに湿り気を帯びてゆく。
ネルが褐色に染まる。まだネルから液体は落ちてこない。
次の瞬間、ポタリと濃褐色の液体が落ちる。

そこから少しずつ湯を注ぐ。
その姿が美しい。

モカを口に含む。香ばしい。
苦みと酸味のバランスが素晴らしい。
滑らかなのに、舌にはしっかり味を残す。
味雷が震えるようであった。
僕にとって珈琲の新たな幕開き。

数年前、けやき通りに引っ越された。
2階である。外光が存分に入り、左右の窓からは緑が見える。
落ち着くが開放感がある。
ご主人の様子は全く変わらない。
いつも同じペースで珈琲を淹れる。
博多に立ち寄ることがあり、
時間に余裕があれば自然と「美美」に足がむかう。

「この間イエメンに行ってきたんですよ」とさらりと仰る。
「『開化堂』の息子さんが、
珈琲用の道具を作っているようですよ」
「やっぱりネルがいいですね」など森光さんの言葉から
啓発を受けることは多い。
単純に旨い珈琲を淹れるというだけでなく、
ルーツを尋ね、学者と研究を重ねたりと、学究派である。
技術と知識が結びつき、
森光さんならではの教養が出来上がっている。
そこに触れるのが、僕はうれしくたまらない。


【本日の店舗】
「珈琲美美」
 福岡市中央区赤坂2-6-27
 092-713-6024


←前回記事へ

2011年8月2日(火)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ