門上 武司

「一杯の珈琲から一皿の満足まで」
  門上武司の食コラム

第57回
福岡の珈琲店「abeki」

その店は古い時計屋さんを改造して作られていた。
壁に小さな棚があり、
そこには懐かしい時計が居心地良さそうに並んでいたのであった。
まさにゆっくり時が流れているという空間。

初めて訪れたのは4年半ほど前のことだ。
「美美」という僕の信頼する
珈琲店のご主人・森光宗男さんに教えてもらった。

「abeki」というこの店。
店主のあべきさん。元美容師という肩書きを持ち、
淡々とした表情で珈琲を淹れる。まず服装が白衣である。
それも上着は膝下まである長いもの。
まるでお医者さんかのような扮装だ。
豆をきちんと量り、ミルで挽く。
それをペーパードリップでじっくり落としてゆくのだが、
彼は座ったままの姿勢でそれを続ける。
後ろ姿を客に見せたままというのは非常にユニークである。

僕はいつもマンデリンを飲む。
予想通りのやや土っぽい香りというか、
野趣にとんだ味わい。好みの味だ。

「うちは知り合いに焙煎をお願いしています。
僕は、どこかの店で修業した経験がありません。
焙煎まで自分で手がけるより、
信頼できる人に頼んだほうがいいかなと思っています」とのこと。
じつは、ここの店を構える前は、出張販売というか、
駐車場の一角を借り、
そこで珈琲を販売していたという時代があった。
つまり、珈琲店の主が一般的にたどる経緯を通過していない
というのがなんとも面白いのだ。
なにものからも自由というスタンスが、気持ちよく響いてくる。

また、ここで食すチーズケーキはとびきりの美味しさなのだ。

一緒に訪れた料理人は
「これは原価かかってますな」と一口目で反応した。
いい食材を使っているのがすぐわかる。
濃厚で肌理が細かく、舌をしっかり覆い尽くす。
この濃さと苦みのある珈琲との相性は素晴らしく、
ついいつもこれを注文してしまう。取り寄せも可能である。

昼下がりに「abeki」で過ごす時間は、
じつに優雅なひとときとなった。
あべきさんの素敵な生き方を味わっているような感じでもある。


【本日の店舗】
「abeki」
 福岡市中央区薬院3-7-13
 092-531-0005


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2011年8月23日(火)

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