門上 武司

「一杯の珈琲から一皿の満足まで」
  門上武司の食コラム

第60回
ししまる

縁というのは不思議なものである。
偶然にも入ったラーメン店で旧知のシェフと出会うとは
予想だにしていなかった。
大阪・ナンバ周辺で昼ごはんを食べようと彷徨っていたとき、
ラーメンの文字が目に飛び込んできた。
一見怪しそうな雰囲気を醸し出していた。
だが、なぜかそこに足を踏み入れた。

カウンターのみ、他に客はいない。
カウンターの中にいる人物に見覚えがある。
数年前にドライエージングの手法を用い、
牛肉を供していたレストランのシェフではないか。

「去年からラーメン屋をやってまして」と木村一也さんが話した。
「フランス料理の人間にとってラーメンは
シンプルかと思っていたのですが、難しい。苦労します」と。

ラーメンは麺とスープの相性である。
とりわけスープにかける意気込みはどこのラーメン店主も
半端ではない。

ラーメンが来るまでに餃子を頼む。
「鉄板も熱くなっていますから気をつけてください」。
一つ食べる。鉄板からチリチリという音が聞こえてくる。
最後まで冷めることなく熱々だ。


「うちには餃子を焼く鉄板が2台あって、
餃子を焼くと同時に隣で鉄板も焼くので熱いんです」との説明。
この餃子が旨い。
 
さてラーメンである。
カウンター内に圧力釜が設置されていた。
「ここでスープを作っています。
この釜の中でスープと脂分の乳化が起こっているんです。
フランス料理で言うところのモンテです」と話し
「すぐに取り出せるように蛇口をつけたんです」と加えてくれた。
確かにその圧力釜から生まれたスープは
無数の細かい泡状で、コクはしっかりあるが極めて食感は軽い。
他では味わったことのないスープである。
白醤油のタイプはまろやかで、黒醤油はコクを感じるのだ。
これはクセというか病みつきになる味わいだ。

しかし、乳化は時間とともに分離する運命にある。
したがって、このラーメンは
できるかぎり早く食べ終えることをおすすめする。


【本日の店舗】
「ししまる」
 大阪市中央区難波1-7-15 江戸安ビル地下1階
 06-6211-5071


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2011年9月2日(金)

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