門上 武司

「一杯の珈琲から一皿の満足まで」
  門上武司の食コラム

第65回
FACTORY KAFE工船

関西だけでなく全国的にその名を知られた
コーヒー焙煎家・大宅稔さん(オオヤコーヒ焙煎所)の
FACTORY WORKSが京都・河原町今出川にある。
「FACTORY KAFE工船」である。


古びたビルの2階。カウンターに腰を落ち着ける。
店名は小林多喜二の「蟹工船」に由来するというから、
それだけでも興味が湧く。

ここはネルドリップでコーヒーを淹れる。
そのネルドリップも自家製で、
円錐というより台形に近い形をしている。

何度か訪れ話をしているうちに、
僕の深煎り好きを店長の瀬戸更紗さんは知ることになった。

この日も「今日はかなり深煎りの豆があります」と
そっと呟いてくれた。
この手の台詞に僕は弱い。
「じゃそれをお願いします」と即答である。
夏の暑い日であった。
同行のカメラマンは「僕は、同じ豆でアイスをお願いします」と。
瀬戸さんは豆を60グラム挽き
「これで2杯分入れますね」と説明した。
小さなネルドリップにほぼ満杯状態である。
ここからの展開が面白かった。
じつは僕が数分後にラジオに電話生出演することになっていた。
「すみません、もう少しあとで
コーヒーを淹れてもらっていいですか」とお願いすると
「じゃあアイスだけ淹れましょう」ということになった。

ラジオ出演を終え席に戻る。
さあ抽出が始まった。そのまま60グラムの豆を使う。
驚くほどゆっくり丁寧に湯を注いでゆく。
ポタリと濃い褐色の液体が落ちる。
やや緊張しながらその手元を凝視する。
気分まで高揚してくる。抽出する分量も少ない。

少し口に含む。
舌の上で液体を転がすように飲む。

最初は苦みが走るが、トロリとした感覚を覚えると、
次にはかすかな甘みが徐々に現れてくる。
「これは凄い。おいしい」と思わず口走ってしまった。
1杯の珈琲で60グラムは初の経験である。
予想を大きく上回る味わいであった。
「まだ焙煎仕立てなので、こんな味ですが、
もう少し日が経つともっとまろやかになるはず」と。
また深煎りに魅せられた。


【本日の店舗】
「FACTORY KAFE工船」
 京都市上京区河原町通り今出川下ル梶井町448
 清和テナントハウス2F G号室
 075-211-5398


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2011年9月20日(火)

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