門上 武司

「一杯の珈琲から一皿の満足まで」
  門上武司の食コラム

第67回
手音

博多には好きな珈琲店が多い。
ここ「手音」は繁華街から少し離れた立地で、
大橋という駅に近い。
また九州大学大橋キャンパスのそばでもある。
外観は、まるで一般的な珈琲店に見える。


しかし、一歩足を踏み入れると、
店主・村上さんの美学がすみずみまで行き届いているのが
一瞬にして分かる。
右手にカウンター、左手にテーブル席というレイアウトだが、
村上さんが必要とするモノ以外は一切置いていない、
と僕はここを訪れる度に強く思う。

メニューの書き方にも特徴がある。
ブレンドは「爽」や「薫」という表記だ。
文字から伝わるイメージで味わいを想像できる。
抽出方法はネル・ドリップである。
ストレートは一杯30グラムの豆を使うという。
これよりゆっくりと湯を落とすのは
不可能ではないかと思える速度で注ぐ。
ネルの中央がぷくりと膨れてくる。
この姿を見るだけでもここに来る値打ちありだと思ってしまう。
いつ訪れても、この淡々としたリズムが変わることがない。

深煎りのマンデリンは、
かなり濃厚な味わいで苦みの中にほんのりと甘みを感じる。
土っぽいという表現も捧げたい味わい。

夏の暑いときには冷たい珈琲を飲むことがある。
淹れ方は、同じ珈琲をシェーカーに入れる。
そして、そのシェーカーを氷の上で高速回転させる。
つまり一気に外側から冷やしてゆく。

珈琲に水分が加わることなく冷却されるのだがら、味に変化はない。
その動きが、また映画のワンシーンを見ているようで美しい。
焙煎は「午前中に店内で、
直火式の手回しの焙煎機を使ってやっています」と。
いまどき珍しい手回しの焙煎機である。
かなりの暑さの中での仕事だ。それも毎日同じ仕事を繰り返す。
優しい頑固な性分なのだろう。
そんなに多く言葉を交わすことはないが、
わずかな言葉からも村上さんのストイックな生き方が伺え、
またそれも大きな魅力となっている。


【本日の店舗】
「手音」
 福岡市南区塩原4-12-10
 092-512-6117


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2011年9月27日(火)

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