門上 武司

「一杯の珈琲から一皿の満足まで」
  門上武司の食コラム

第72回
祇園にしむら

京都・祇園町南側。石畳に街灯がにぶく滲む。
京都の町家がずらりと軒を並べる。
そこに「祇園にしむら」がある。

主の西村元秀さんは、京都生まれだが
京都での修業経験はなく「東京吉兆」で仕事を覚え帰京し、
そのままこの場所で店を構えた。

西村さんが考えたのは
「なにか名物と呼ばれる料理を作りたい」ということであった。
まずは造りである。

関西人にとっては「鯛」が王様。
優れた鯛を仕入れるのが大変だ。
「買い続けるしかなかった。それも言い値で、です」と。
開店以来何があっても鯛を買い続ける。
それは鮮魚屋を勇気づけることであり、信頼関係が生まれる。
だから、いつも「『祇園のにしむら』の鯛は凄い!」
という認識が流布していった。
つぎは胡麻豆腐である。

比較的前菜のときに登場する胡麻豆腐。
ここでインパクトを与えることができれば、
あとの展開に興味が湧いてくる。
この日は最初に出てきた。
柚子の香りが鼻腔に届き、
次はややねっとりとした食感に舌が微笑む。
そこから伝わってくる甘みや香ばしさの連続が、
気持ちに余裕をもたらしてくれる。
ここで完全に心をぐさりとつかまれた感じだ。

それに加えて鯖寿司である。

僕が「祇園にしむら」を訪れる愉しみの一つに鯖寿司がある。
脂の乗り切った鯖の身はどこまでも厚く、
時には寿司飯より分量が多い。
寿司飯の酸味と鯖の旨みの絶妙なバランスこそ、
ここの鯖寿司の真骨頂ともいえる。
季節が変われば、昆布の替わりに千枚漬けが加わる。
ここで鯖寿司の印象が変わる。
鯖寿司一つでこの店を語ることも可能なほど、
重要なポジションを獲得しているのである。

店を開き15年以上の歳月が流れる。料理は常に変化する。
そして成長を続ける。
「料理はどんどんシンプルになってゆきます」と。
焼きものは甘鯛の塩焼きであった。

それは甘鯛の旨みを凝縮させる見事な焼き方であった。
だが、締めの御飯は、鯛とアワビのあんかけ御飯で
やや変化球を投げるなど、
食べ手を魅了する技を、いくつも持っている料理人である。


【本日の店舗】
「祇園にしむら」
 京都市東山区祇園町南側570-160
 075-525-2727


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2011年10月14日(金)

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