門上 武司

「一杯の珈琲から一皿の満足まで」
  門上武司の食コラム

第75回
平岡珈琲店

大阪・平野町に90年の歴史を刻む「平岡珈琲店」がある。

当代は3代目。
なんといっても抽出方法に独自のスタイルを持つ。
古いシチュー鍋で珈琲豆を煮出す。


それを天竺木綿で絞るというのだ。

「この鍋はおじいさんが90年前に始めたときから
ずっと使っているアイルランド製のものです」と。
確かに見ていると、注文が入る度に、豆を量り、
鍋に入れボイルした湯を注ぐ。
煮立ってきたところで、それを木綿で絞る。
「一杯、12グラムで200ccの勘定です。
あとは人数分掛けるだけです。いちばんブレがないというか、
淹れる人によって味の違いが生まれない方法です」と話し
「ドリップだとどうしても湯を注ぐスピードなどで少しずつ、
味が違ってしまいます」と付け加えてくれた。

90年変わらぬスタイルでずっと深煎りの珈琲を淹れ続ける。

しかし、時代によって珈琲豆は変化する。
「やはり同じ産地の珈琲が入ってくるとは限りませんから。
同じ国でも場所が違えば味わいは変わってきます。
それを調整するのが焙煎です」。
つまり時代の変化に呼応するように
豆のブレンドと焙煎を微妙に変えてゆく。
まさに職人の技が生きる世界だし、
人間の手や舌がコンピュータとは
違ったセンサーを持っていると信じたい。

またここではオリジナルドーナツを食すことをおすすめする。

なんといっても
「コーヒーとドーナツ」と書かれた看板があるぐらいだ。
ごくごくシンプルにして甘みを控えたドーナツ。
食感はやや固めでさっくりとしている。
濃く淹れられたコーヒーとの相性は見事としかいいようがない。
ドーナツを食す、コーヒーを飲む。
苦みと優しい甘みが素敵な調和を奏でているような感じである。

一人ならカウンターに腰を下ろし、
マスターと話をするのも楽しい時間だ。
初代、2代目、当代と
それぞれコーヒーの味わいは違うようである。

継承しながら自らの個性をいかに出すか。
個性があるからこそ、伝統となるし、
次の代への楽しみが増すというものだ。


【本日の店舗】
「平岡珈琲店」
 大阪市中央区瓦町3-6-11
 06-6231-6020


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2011年10月25日(月)

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