門上 武司

「一杯の珈琲から一皿の満足まで」
  門上武司の食コラム

第78回
天ぷら 松

京都嵐山のロードサイド。
「天ぷら 松」と書かれた行灯がともる。
店の概要を知らなければ、
なかなか足を踏み入れる勇気は湧いてこないような佇まいだ。
だが、中に入ると僕たちを含めカウンターは満席状態。
同行した神戸にあったフランス料理店の
元オーナーシェフ(いまや伝説といわれる)は
「この場所で、それも平日に、
いったい京都はどうなってるのですかね」
と驚きを隠せない表情である。カウンターだけではない。
客席はほぼ満席のようだ。

大将と息子さんに加えて熟達の料理人数名が
無駄なく仕事をしている。
その流れの良さ、表情の明るさなど
全てがこちらに心地よく響いてくる。
椀物が出た。天然のスッポンにナメコである。

スッポンの濃厚な味わいとナメコの粘着質の饗宴だ。
しつこくないのが天然の真骨頂である。


次の向付にやられた。

蛸、伊勢海老、鯛とくるのだが、
どの素材も質の良さがストレートに伝わる。
車海老は湯葉を衣に揚げ、湯葉ソースと味噌ソースをかける。

同じ皿には伊勢海老の味噌ソースである。
独自の世界を築いているのが、その器だ。なんと乾山だという。

これまで美術館で実物を見たり、
料理屋で乾山写しを触ったことはあるが、
それに盛られた料理を食するとは思ってもみなかった。
「30年間かけていろいろな器を集めました」
と大将はさらりと言ってのけるのが素晴らしい。
「器は使うて値打ちがあるのやから」ということ。


鮎のリゾットだ。

これも焼いた鮎の骨を一年かけてカビをつけ、
鰹節のように鮎節を作り、そこから出汁を取るという。
それを使ったリゾット。
鮎の香りや旨みなどが実に見事な味わいを供する。
恐れ入りました。
「他の人と同じことをするのが嫌なんで」と。

鱧はその肝ソースで食べる。
出会いの松茸は「歯ごたえを愉しんでください」となる。

ホントに京都は奥深いところと実感した。


【本日の店舗】
「天ぷら 松」
 京都府京都市右京区梅津大縄場町21-26
 075-881-9190


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2011年11月4日(金)

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