門上 武司

「一杯の珈琲から一皿の満足まで」
  門上武司の食コラム

第87回
ゼー六

先日、東京在住のコーヒー好きの方と話した。
そのとき「昔は、大阪のコーヒーは泥のようだと
聞かされていました。
でも飲んでみると、そんなことは無いなと思いました」
という言葉が出た。
たしかに、濃く苦みも酸味も強いコーヒーは
大阪に多いかもしれない。
しかし、それが街全体の印象を決めるのはやや乱暴だなと思った。
ただ、個性派が多いのは否めないとも思う。


大阪・本町通りにある「ゼー六」もその一軒である。
表には店名とアイスクリーム・自家焙煎の文字が目立つ。
大阪人にとって「ゼー六」のアイスクリームは名物の一つだ。



アイスモナカを食べると、
市販のアイスクリームとは一線を画く存在であることが分かる。

まず、いかにも手作りという印象が強い。
いま流行りの濃度の高いものではない。
むしろいいミルクに甘みを加えて固めたという感覚だ。
大正2年創業で、現在は3代目の廣瀬光徳さんが、
その暖簾を守っている。
ちなみに「ぜーろく」とは、「贅六」と書いて、
商人に無用の贅物六つ
(禄、閥、引、学、太刀、身分)をさす言葉が由来だそうだ。


そして自家焙煎のコーヒーである。

まず焙煎方法が独自のスタイル。
オーブントースターでトーストを焼くように、
鉄板に生豆を並べ直火で焙煎する。
焙煎具合も、自らの目が頼りとなる。
なにせ大正2年創業である。
現在のように焙煎所や焙煎機の優れたものがある時代ではない。
それぞれの店で主やスタッフが考え、
経験を積み重ねオリジナルの手法を編み出していったのだ。

店の造りもそんなに変わっていない。
木製の看板、土間、ごつい木のテーブルなど
当時を想起させる装置が、居心地良さそうに存在し、
懐かしさを醸し出している。
それをできうる限り守ろうという意志が店内いたるところに息づく。
もっと便利な方法や機械がある。
しかし、それを知りながらも、
大正の風情と心意気を維持する力は凄いものだ。

【本日の店舗】
「ゼー六」
 大阪府大阪市中央区本町1-3-22
 06-6261-2606


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2011年12月6日(火)

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