門上 武司

「一杯の珈琲から一皿の満足まで」
  門上武司の食コラム

第119回
逃現郷

京都・西陣の片隅。

むかしミルクホールであった建物をコーヒー店として使う
「逃現郷」のオーナー・菅原隆弘さんは、
サイフォンで静かにコーヒーを点てる。

「サイフォンなんですね」と尋ねると
「昔働いていた店がサイフォンで有名な店だったので、
これしかできないのです」と語ってくれた。
「ハナフサですか」「そうなんです。ご存知ですか」
というやりとりからコーヒーについての会話が始まった。


僕は深煎を注文した。
これはブレンドにマンデリンをプラスしたもの。



カウンターに座ったので、目の前でコーヒーが出来上がってゆく。
お湯を注ぎ、挽いたコーヒー豆を入れる。
火にかけると次第にお湯が上がってゆく。

そこで木べらで攪拌。
この撹拌がじつに優雅で丁寧なのが分かる。
火を止めると自然とコーヒーが落ちる。
このサイフォンならではの流れをつぶさに見る。これは楽しい。
香りが漂ってくる。
口に含むと深煎り独特の苦味とコクがかけぬける。
しかし、飲みくちはすっきりと雑味もなくクリアである。

コーヒー豆は「京都珈琲の里 マサイの風」から仕入れる。
ここにお願いするきっかけも面白かった。
毎月北野天満宮で市が立つ。
そこへ出かけた菅原さんが出会ったのが「マサイの風」。
独立前であった。
そこでコンタクトを取り、「独立時には」と依頼したという。
それが結実したのだ。

菅原さんは柔軟な思考の持ち主だ。
サイフォンしかやらないが
「あくまでコーヒーはみなさんの嗜好によって
好みは変わりますから、
いろいろなスタイルがあっていいと思います」と口にした。
そんな自然体が、ノスタルジーを感じさせるのかもしれない。
猫がいたり、おおきな金魚鉢で金魚を飼うなど、
言葉を並べれば、一瞬不思議な空間を想像してしまいそうだが、
じつにゆったりした空間である。

時がゆっくりと、時には止まっているのかと
錯覚を覚えることもある。

朝の7時から営業が始まるのも、とてもユニークだ。

【本日の店舗紹介】
「逃現郷」
 京都市上京区今出川通大宮上ル観世町127-1
 075-354-6866


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2012年3月27日(火)

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