邱先生へのメッセージ
邱永漢先生との出会いは、
かつて僕が勤めていた「110番舎企画」という
セールスプロモーションの企画会社の社長にして
稀代の作詞家・もず唱平先生を通じてであった。
もう30年以上も前のことである。
僕は20歳代、邱先生はすでに50歳を超え、
すでに「お金儲けの神様」と呼ばれていた頃だ。
しかし、僕には直木賞作家という文学者のイメージがあった。
原稿を書くという行為に憧れを抱いていた若造には眩しい存在だ。
初対面では、かなりの緊張感を覚えていた。
たしか、大阪のホテルのロビーでお目にかかったはずだ。
もず先生に「こいつは若いけれど、食べるのが好きでいろんな処、
食べてますねや」と紹介してもらった。
「君は、どんな料理屋が好きなの」と聞かれ
「京都の『河久』という割烹が好きです」と恐る恐る答えた。
すると「そこはどこがいいの?」「どんな料理が出てくるの?」
「どんなお客さんが集まってくるの?」
「値段はいくらぐらいなの?」と次々に質問が返ってきたのだ。
どう答えたのか覚えていないが、
邱先生は不明なところはそのままにしないのだ、と思った。
僕のような若造にでも、
同じような目線で質問をされる。
そのニュートラルな思考回路に驚くと同時に、
感動も覚えたのであった。
分からないことは、決してそのままにせず、
出来うるかぎり早めに解決する。
そんな好奇心こそ、邱永漢先生が神様であるゆえんなのだと、
いまもずっと思っている。
ご冥福をお祈りいたします。
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