門上 武司

「一杯の珈琲から一皿の満足まで」
  門上武司の食コラム

第143回
稚内珈琲店

日本最北端の街・稚内。
この地は、日本で初めてコーヒーを提供したのではないかと
思われる記述がある。

19世紀初頭のこと。
当時、稚内(宗谷)は幕府の直轄地で津軽藩士、
会津藩士がやってきたが、極寒に耐え切れず
水腫病(体内組織にリンパ液が溜まる)のために
亡くなる人が多かった。
これに対してコーヒーが薬効あるとなり
「コーヒー豆、寒気をふせぎ湿邪を払う。
黒くなるまでよく煎り、細かくたらりとなるまで砕き
二さじ程を麻の袋に入れ、(中略)砂糖を入れて用いるべし」
と蘭学者の記述がある。

つまり、稚内ではコーヒーが薬として流通したのだ。
結果、死者が減ったとも言われる。


さて、そんな稚内の「稚内珈琲店」では
「稚内煎豆湯(せんとうゆ)」という
当時の味を再現したコーヒーがある。

「資料をあたりながら焙煎を考えたり、結構苦労しました」
と店主の加藤敏彦さんは語ってくれた。

飲むとさっぱりした味わいで、
こんな歴史が稚内には眠っていたのだと、考えさせられた。
まさか、こんなエピソードに触れるとは予想もしなかった。
旅の中で発見することは多い。


ここは自家焙煎である。
また店主は音楽、それもジャズ好きだ。
ジャズのCDがさりげなく置かれ、
僕が訪ねたときはキャノンボール・アダレイが流れていた。
コーヒーとジャズとはどこか相性がいいなと、
しばし聴き入ってしまう。


そしてカウンター後ろにずらっと並んでいるコーヒーカップ。
大倉陶器の名品だ。
「左右の棚からお好きなのを選んでください」とのことだ。
気分によって一碗選ぶ。
迷ったりするのも楽しく、
それで幾分味わいが変わってくるような感覚を覚える。


「稚内煎豆湯」以外にもマンデリンを飲んだ。
苦みは十分だが、軽やかな味わい。
ともあれ、日本最北端の地で、コーヒーを飲み、
その地の歴史の一ページをめくったような
気持ちに浸っていたのであった。


【本日の店舗紹介】

「稚内珈琲店」
 稚内市大黒2-5-26
 0162-22-6174


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2012年6月19日(火)

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