前川正博さんはこうして
福祉の国で、国にたよらずに根をおろしました

第252回
僕達だって犯罪を犯すようになるかもしれません

私が元働いていた学童保育園に、
私より数年後から入ってきた職員の25周年パーティーがありました。
朝から晩までオープンハウスということで、
狭い保育園の建物で、昔通っていた子供たちが集まりました。
16年から30年も前の子供たちです。
おじさん、おばさんになった元子供たちの顔を見ると、
たちまちにして、一人一人の名前が頭に浮かんでくるのでした。
私は名前を覚えるのが苦手なのですが、
再会を大変喜んでくれている相手の名前を、
不思議と思い出せたのでよかったです。

見上げるように大きく育って、
すでに中年太りしている子が多いのでした。
ところが、Eという小さくて細身だった少年は、
そのまま小さくて細い中年になっていました。
私を見つけると、飲みかけのビール瓶を片手に、
ビックリしたような顔で近づいて来ました。

彼とは特に親しいというわけではなかったのです。
それなのに、なぜか、私達夫婦が日本に旅行する時に、
飛行場まで見送りに来てくれたことがあります。
同じようにプレイ・グランドに来ていた仲の良い女の子を誘って、
バスに乗ってやって来たのでした。
「何で又やって来たの?」と私が無粋に尋ねると、
「長いこと飛行機も見ていないから」という答えが返ってきました。
のんびりとして、ニコニコして、することが面白くて、
プレイ・グランドではいつも良い子だったのでした。
その彼が、大人になって、
どこかに泥棒に入ったと聞いたことがあります。
学童保育園に来ていたもう一人の男の子と一緒に
「今、刑務所に入れられているよ」と、聞いて
“あのEが!”と、大変ビックリしました。

「最近は何をしていたの?」と、私がEに尋ねると
「船に乗って、世界を廻ってきたよ」と言います。
そして、笑いが消えて、考える目になって
「毎日毎日、学校で落ち込んだあの頃はイヤだったなあ。
ここに毎日来て、ホッと安らいだなあ」
と独り言のようにつぶやきました。

Eの明日はどうなるか分りませんが
「もしかすると、僕達だって今後において、
罪悪を犯すようになるかもしれません。
その時・・・子供の頃の善良な思い出の数々こそ、最上の教育です」
ドフトエフスキーの描いたこんな場面に、
立ち会っているような気持になりました。


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2005年7月4日(月)

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