死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第29回
もらう側の気持も考えて・・

私は日本に住んでみて、
日本人は一般に他人に贈物をするのが下手だ
という印象を持っている。

日本人のように、美的感覚のある人たちがなぜ人に物を贈る時、
物をもらう側の人の気持になって品選びをしないのだろうかと、
いささかびっくりする。
お中元とお歳暮の季節になると、
私もたくさん物をいただく方だが、
時にはどうしてこんなものをくれるのかと
首をかしげるものにぶつかる。

例をあげると、或る一流の出版社が、
チヂミの肌着を送ってきたことがあった。
選んだ人はチヂミの肌着を着ているのかもしれないが、
文士の全部がチヂミを着ると思っているのだろうか、と一瞬、
我が目を疑った。

また座布団のカバーが五枚で一組になったのを
贈ってくれた人があった。
私の家には畳の部屋が一つもないが、仮にあったとしても、
ああいうお粗末なものを使うわけがない。
またツングルのべッドにも使えないような、
せんべいぶとん用の夏のシーツを贈られたこともある。
今時、ああいうシーツを使っている人が
平均的サラリーマンのなかにもはたして何人いるかと
疑いたくなるような代物である。

さらにまた、うんと気張って、
一本三万円も五万円もするナポレオンのブランデーを
贈ってくれる人もある。
成田やアンカレッジの免税店に行くと、
洋酒の売価と日本国内の市価を二つ並べて、
誰にでも一目瞭然にわかるように、わざわざ表示してある。
あれを見ると、日本の税関が如何に不当に税金を取っているか、
日本の総代理店やデパートが如何に流通過程で暴利を
むさぼっているか、改めて痛感させられる。

だから、外国旅行をする人は、
なるべく値段にひらきのあるのを選んで、
提げられるだけ両手に提げて帰ってくる。
私もはじめの頃は、せっせと洋酒の運び屋をつとめたが、
年に十四、五回も外国旅行をするようになると、
さすがにバカらしくなってやめてしまった。
そういう私のところへ、三万円払ってナポレオンを下さっても、
大して有難いとは思わない。

だから、少し親しくなると、
「税金払っているようなもので、勿体ないから、
どうか洋酒はやめて下さい」とはっきり言うようにしている。

その点、みかんとか、りんごとか、男爵いもとか、
玉葱とか、山芋とか、土地の食べ物を送ってもらうのは有難い。
また紅茶とか、珈琲とか、海苔とか、食用油とか、
高級石鹸を送ってくれるのも、まあまあ、無難だと思う。

どうせもらうなら、
こちらももらって有難いと思うものがいいから、
義理合い上、どうしても物をくれないと気がすまない人に対して、
私は、干飽魚、干貝柱、椎茸、海苔にして下さいと
厚かましい要求をすることもある。
すると、干飽魚や干貝柱でなくて椎茸と海苔の山が
できたりするのは、やはりお値段の関係であろうか。





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2012年12月22日(土)

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