死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第38回
目白三平の長い長いスピーチ

娘の結婚式から二年半あまりたって、
漸く長男の結婚式の番になった。
私には娘と息子を差別する考えは露ほどもないが、
長男はたまたま私の事業面の仕事を継ぐ段取りになっていたので、
娘と違って仕事の上でお世話になる可能性のある人たちは
一通り招待しないわけには行くまいと思った。

娘の場合は嫁入先の方も一応、交際の多い家であるから、
招ぶ客は両家でほぼ三百三十人に抑え
それぞれ人数も半分ずつなら、
費用も折半にしようということだった。
身内の者も入れて、各々百六十五人ずつということになると、
父親である私の客を全部、招ぶわけには行かない。

何と言っても娘の嫁入りだから、親戚と娘の友人や知人が優先で、
次が娘を子供の時からよく知っている私の友人、
そして、最後が私の仕事の上での友人のうち、
かかわり合いの密度から言って、
招ばないと義理を欠くと思われる人々にしぼられてくる。

おかげで、それ以外の人には失礼をすることになり、
娘の結婚は、『週刊新潮』をはじめ、
『日経流通新聞』や『セレクト』などにも報道されたから、
きまりの悪い思いをさせられる場面もないではなかった。

その点、長男の場合は、人数の制限もさほどきびしくないし、
嫁さんの家は田舎の人でもあり、
公務員でつきあいもそんなに多くない。
娘の嫁入りにわざわざ東京まで出かけてくるのは身内の者か、
親戚づきあいをしている、余程親しい者に限られる。
というわけで、約五百通の招待状を出したが
そのうち五十通が嫁さん関係であり、
私の方は三百七、八十人くらいの出席通知をいただいた。

前回、かなりうまく行ったので、
それに負けないようにという競争意識が息子の方にはある。
私は私で、一ぺん、うまくいった実績があるから、
あまり心配はしなかったが、スピーチを頼むのに、
まさか前とそっくり同じメンバーに頼むわけにも行かない。





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2012年12月31日(月)

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