となると、地元銀行は古くからの取引先に融資をしたくとも、貸すお金がなくなってお手上げになる。ちゃんと立派にやっている会社でさえ、長く取引をしてきた銀行からLC(信用状)をひらく面倒さえみてもらえなくなる。これではバーツや原料の輸入にも問題が起る。そういう目にあわされている連中が資産の半分でも五分の一でもいいから会社ごと買ってくれないか、あるいは、経営権を渡してもいいから、共同経営者になってくれないかと走りまわっているのがいまのタイの現状である。
利益追求のためには手段を選ばない投機資金によって堅気の実業家たちがげんに崖っぷちまで追い込まれているのだから割りきれない気持になるのは私一人ではあるまい。
これと大同小異のピンチがすぐお隣のマレーシアにも、続いてフィリピンやインドネシアにも伝染した。マレーシアの経済発展に主導的な役割を果してきたマハティール首相が怒り心頭に発して、ソロスを名指しで悪党呼ばわりをしたのは新聞が報道したとおりだが、ソロスの仕業であるかどうかは別としても、そういう小鬼たちがこの二十年のあいだにすっかり大鬼に成長して、世界中を股にかけて大暴れをしていることは疑いの余地がない。なにしろ世界中の中央銀行の総裁たちがその跳梁ぶりには頭を痛めているのだから、マハティールの不用意な発言がマレーシアの株価や為替相場に逆効果をもたらしたとしても、「国際貿易に投機資金の介入を許すな」という彼の怒りに賛意を示す人は多いに違いない。
こうしたならず者の投機資金によって世界経済が大きく左右されるようになったのも、じつはチューリッヒの小鬼どもと呼ばれた投機資金が石油ショックやレーガンの強いアメリカ政策を栄養分として世界の大鬼に育ってしまったからである。
そうした資金がまず世界一の経済成長国であった日本をバブル大国に膨らませ、続いてそれを風船が萎むように萎ませてしまった。その乳母の役割を果したのがアメリカであるから、日本の次は、日本についで経済が発達しはじめた韓国や台湾であリ、さらに続いて東南アジアの国々という順序になることは免れない。国によって経済的な基盤の強弱も違うし、また対策のとり方も違うから、被害の受け方ももちろん一律ではないが、震源地がアメリカであることに何の変りもない。アメリカに端を発した経済的な大津波は地球が狭くなったおかげで、地球の果てまで届くようになったのである。
では小鬼たちがどうして大鬼にまで成長したかというと、事の起りは石油ショックである。中東の産油国が結束してOAPEC(アラブ石油輸出国機構)を組織し、二十何年前に原油の価格を一バレルニドルから一挙に十ニドルに値上げしたとき、世界の価格構造はバランスを失って大混乱に陥った。原油価格が六倍に上がると、日本のような石油輸入国は前年度と同じ量の石油を輸入しただけで外貨準備高のすべてを一年間で使いはたすことになり、次の年からは暖房のない寒空の下で震えることになるだろうといわれた。
実際には、石油の値段を上げれば、それを買って加工をする日本のような国では加工製品の値も上がるから、価格体系が変るだけであって、「産油国は日本という壁に向ってテニスをやっているようなもので、強く打てば強くはね返るだけ」「産油国の栄耀栄華はそう長くは続かない」と私は日本が貧乏になるという意見には反対したが、アメリカの反応はいささか違ったものであった。
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