東南アジア経済成長の神話はすぐ復活する
(1998年1月30日執筆  『Voice』98年4月号発表)
しかし、ボーダーレスの時代にいつまでも国境の扉を閉めておくわけにもいかないし、といって開けっぱなしにしておくこともできない。開けっぱなしにしておけば蠅も蚊も入ってくるし、閉めっぱなしにすれば新鮮な空気だって入ってこなくなる。だから網戸が必要になるんだということになるが、お金の出入りを制限するのは、人や物の出入りを制限するより難しい。人は顔かたちでどこの人かだいたいわかるし、国籍ならパスポートを見ればすぐわかる。また物は嵩張るから、見れば何に使われる物か、どこでつくられた物か、だいたいの見当がつく。
ところがお金は形をなしていないし、バスポートなしにどこにでも動く。しかもどんな素性のお金で何のために使われるお金か、どこにも書いていない。嘘をつかれても嘘と見破ることさえできない。仕方がないから、お金の出入りは自由にするとしても、歓迎できるお金とそうでないお金をチェックして、歓迎できるとわかったお金には特別待遇をする措置を講ずるよりほかない。
たとえば、海外からの投資、すなわち事業資金は何パーセント以内でないと駄目だといった差別待遇などしないようにする。また株を発行して資金を調達する場合は、株価が暴落しても売られる可能性があるが、どっちにしても第三者が現われて買ってくれなければ売れないものである。しかも、一度調達された資金が回収されるわけではないから、株主が別の人に代ったことくらいで目くじらを立てることはない。
中国はそういう資金を調達する窓□を香港や上海取引所に設けて経済発展のエネルギー源にしようとしている。株は叩き売られていっせいに外貨に換えられた場合、けっこうしんどい目にあわされる危険があるけれども、資金の調達にともなうデメリットは資金の集まるメリットよりずっと小さいから、デメリットを恐れてメリットを失うわけにはいかないだろう。
とすれば資金調達の場としての香港の環境を中国が守ろうとする姿勢も理解できる。香港にお金が集まってこなければ資金が調達できないのだから、香港をお金にとって居心地のよい「お金の天国」にしておくことはどうしても必要なことである。ペッグ制を守ろうというのも香港ドルに対する信頼度を米ドルと同じレベルに維持したいという中国政府の悲願であり、そうしようと思えばそれができるだけの実力はあるが、そのためにはアジアの通貨不安が落ち着くまでのあいだ、金利高と株安と不動産安で不況の波をかぶることをある程度我慢しなければならないだろう。
それに比べると、台湾の立場はかなり違う。台湾は九百億ドル前後の外貨準備高をもち、短期資金の流出に耐えられるだけの実力をもっているので、通貨不安の直撃こそ受けていないが、ドル買いの投機に見舞われなかったわけではない。タイやマレーシアで現地通貨売りが始まると、いずれ台湾にも波及するだろうという思惑が働いて、台湾でもたちまち新台幣を売ってドルを買う動きが活発になった。台湾はペッグ制こそ宣言していないが、いわゆるダーティ変動制で、中央銀行が豊富な外貨準備を背景に為替レートを一定の水準にコントロールしているので、ドル買いがはじまったころは、中央銀行がこれに売り向った。
しかし、ドル買いの圧力がさらに強まると、台湾の中央銀行は市場の趨勢に任せるべきだと方針を変えて、ドル高、元安を容認したので、一ドル二十八元があっという間に三十元を超え、一時は三十四元を超えたが、いまでは三十三元台に落ち着いている。約二〇%弱の値下がりである。レートは調節したが、金利は逆に安く据えおいて、輸出業者に有利なように配慮したので輸入品の外車の価格が上がったくらいなことで、たいした混乱は起っていない。ただ台湾商品の輸出先のうち、東南アジアヘの輸出はそれなりの減少は覚悟しなければならないから、株も約二〇%下がった。
それでも台湾が東南アジアのほかの地域に比べて安泰な理由は、台湾が永年にわたって貿易黒字を重ね、十分な貯蓄をもっているからであるが、同時に台湾の産業界が多数の中小企業によって形成されていて、韓国のような大財閥中心の産業構造になっていないこととも関係がある。
台湾も韓国もかつては同じように日本の統治を受け、日本型の産業構造になっているが、戦後、日本の手を離れてから、韓国が国家権力を背景として新しい財閥を次から次へと誕生させたのに対して、台湾は外来政権である国民党に支配されたので、国を頼りにすることのできない企業家たちが、小さな町工場からスタートして工業生産に従事し、日本から技術を取り入れたり日本の模倣をしたりして、主として労働集約的な分野で、日本のお株を奪い、少しずつスケールを大きくしていった。
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