その一方で、外貨がドンドン日本に貯まり、日本は見る見る世界一の債権国になってしまった。外貨が貯まってもただ外貨をもっているだけというのなら構わないが、輸出をした企業は賃金や金利やそのほかの必要経費を支払うためにドルを日本円に換える必要が起る。ドルばかり増えて、円が一定しかないところで、ドルを円に交換しようとすれば、たちまち円の大暴騰になる。そんなことになったら、輸出はすぐにもストップしてしまう。
昔なら輸出代金は黄金で支払ってもらって、その黄金を裏付けに紙幣を発行するのが金本位制であった。しかし、黄金があまりたくさん流出すると国が貧乏になるのをおそれて、どこの国でも輸入品に高い関税をかけたり、輸入を禁止したりして黄金の流出を防いだ。貿易上のインバランスをそういう形で調節したのである。
ところが、金本位制を廃止してドルを貿易の決済通貨として使うようになると、ドルが金の代りをやるようになった。ドルをもらうとどこの中央銀行でもそれを担保にして、そ
の国の紙幣を発行して民間の要求に応ずる。輸出と輸入のバランスがだいたいとれているときは、紙幣の発行はそんなに増えないから、経済に深刻な影響を及ぼすようなことはない。発展途上国はどこも輸出より輸入が多くなる傾向にあるから外貨不足になることはあっても、外貨がダブつく心配はない。そういう国でインフレが起るのは、財政赤字をお札を印刷して補おうとするからであって、外貨が増えすぎたからではない。
日本もかつてはそういう国の一つだった。それが一転して猛烈な勢いでドルを稼ぐようになると、稼いだ分だけドルは日本銀行におさまり、日本銀行がそれを見返りに日本円を発行するから、ドルの増えた分だけ国内は円の大洪水になる。
日銀では昔なら金塊を地下の金庫(金庫という言葉はそこから生れた)に眠らせておいたが、いまはドルというアメリカの通貨だから、それをアメリカにもっていって運用する。日銀の場合は大半がアメリカの国債を買い、それで金利を稼いでいる。国民から預かったドルは金利を稼ぐのに使い、代りに紙に印刷して渡した日本円には金利を払わないですむのだから、世の中にこんな素晴らしい商売は滅多にあるものではない。
こういう仕掛けになっている以上、貿易が黒字になればなるほど国が儲かるのだから、口では輸入をふやしてバランスをとらないとたいへんなことになるといいながら、本気になって貿易の黒字を減らす努力をするわけがない。
「貿易黒字はいいことだ」というのが日本政府の本音であり、日本の産業界がそれに同調したために、日本国中がお札の洪水になって、地価も株価も大暴騰して一大バブルが発生してしまった。一頃は、日本国中が成り金気分になり、東京の土地の値段でアメリカがいくつ買えるかなどといった戯言まで聞かれたが、それがあっという間にビールの泡と消えて元の木阿弥になってしまった。
ほんとうをいえば、バブル以前の状能に戻っただけのことであるが、たとえ邯鄲一炊(かんたんいっすい)の夢にすぎないとしても、その間に金銭的な取引が無数に行われているから、夢から醍めても借金や不良債権だけが山と残り、日本国の産業界に苦役十年という罰をもたらすことになってしまった。
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