その原因はといえば、日本人がドルという外国の紙幣を世界の基軸通貨として無条件に受け入れ、欲張ってそれを稼ぎすぎたからである。ドルは世界の基軸通貨として通用していることは間違いないが、基軸通貨であると同時にアメリカの国内通貨でもある。というよりもともとがアメリカの国内通貨で、世界中が便宜上、国際通貨として使用しているだけのことだから、アメリカの国力がおちたり、ドルが政府の都合で濫発されたりしても文句をいえる筋合いではない。
アメリカにしてみれば、貿易赤字が定着して物を輸入するたびに対外債務が増えるとすれば、当然、債務を減らす努力をする。いちばん簡単な方法はドルの平価切り下げだから、一ドル三百六十円だったのを百八十円にすれば、日本人の手に移ったドルは日本円になおすと半分に減るし、百八十円を九十円にすれば、四分の一になる。
日銀をはじめ、大蔵省に行政指導されてアメリカの国債を買った保険会社は日本円に戻すとたいへんな損失になり、営々として稼いだものを半分に目減りさせてしまった。銀行にすすめられてアメリカの不動産や債券に手を出した日本の投資家たちも、アメリカのバブルの崩壊で不動産の値下がりにあったうえに、円高で二重三重に損害を被っている。
その一方で、貿易黒字がもたらした円の洪水で国内にバブルが発生し、その反動がきて株価も地価も大暴落をすると、にっちもさっちもいかなくなってしまった。そうなったのも自分たちがドルに対する処置を誤ったせいだから、アメリカを怒るわけにはいかないが、ドルを稼ぎすぎたらどういう目にあわされるか、日本人はいやというほど味わわされたことになる。
しかし、日本人はバブルの発生とそれに続くバブルの崩壊が基軸通貨としてのドルヘの過信から始まっていることにはまだ必ずしも気づいていない。アメリカに物を売ってドルを稼ぐのはいいけれど、ドルをもちすぎるとドルの国内通貨としての欠陥を一手に引き受けることになってしまう。その影響はお金の貸し借りと深い関係のある銀行・保険・証券・不動産・ゼネコンといった金融や資産の全分野に及ぶから、そういう動きを読み切れなかった日本の産業界はこれらの分野にかぎって壊滅的な打撃を受けた。
ドルを稼ぎすぎた咎めがどういうものであるかは日本が初めて経験したことである。世界中でも初めての経験だから、その被害を避けきれなかったのは仕方ないとしても、バブルが崩壊した時点で善処しておれば、おそらく被害はこれほど大きなものにならなくてすんだであろう。私でさえ気のついたことだから、日本中で私と同じ見方のできた人は、一人や二人ではないと思う。
しかし、高度成長期に日本の経済成長を推進できた政治家や役人はいくらでもいたが、成熟期に入った日本を過去の泥沼から引きずり出すだけの先見の明と強烈な指導力をもった政治家に残念ながら恵まれなかったといわざるをえない。
日本では政治家たちはなすところを知らず何ひとつ有効な手は打たなかったが、企業家たちも自分たちの生き残り作戦を展開するのがやっとだった。その一環として、生産基地として失格した日本から工場をタイやマレーシアやインドネシアに移動する動きがあった。アジアの成長の奇跡の一端は日本が担ってきたのである。また韓国は、日本の企業進出は排除したが、日本の資金と技術は受け入れて、日本に追いつき、日本を追い越せという独自の動きをしてきた。
韓国も含めてアジアの全地域は、アメリカが自国で生産しても引き合わないために輸入に切り換えた分野でドルを稼ぐべく投資を展開してきたのである。もちろん、そのなかには現地の市場をあてこんだ投資も含まれているが、いずれも資金も技術もないところでやるのだから、資金も技術も先進国に頼るよりほかなかった。世界中に溢れたドルがその資金需要に応じてきた。なかでもアメリカに集まった資金がいちばん大きな供給源だが、日本が貯め込んだドルももちろんそれなりの役割をはたしている。
かくてドルを稼ぐ世界的な競争のなかに東南アジアや韓国も割り込んだが、ドルを稼ぐためにドルを借りた国々が一足先にドルを稼ぎまくった日本と同じ罪に泣き、同じ罰をくらうことになったのである。
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