ドルの通り道には交通信号が必要だ
(1998年1月30日執筆  『Voice』98年4月号発表)
世界中でいちばん稼ぎやすいお金はドルである。だからドルを稼ぐのはいい。しかしドルには世界通貨としての中立性がなく、アメリカという国のエゴイズムが働くので、それに耐えられるだけの備えがなければ屋根ごと吹っとばされてしまうことを今回の通貨不安がわれわれに教えてくれた。
そればかりでなく、アメリカの国内事情で、とめどなく印刷されるドル紙幣とドルを背景として創造された信用が世界中をわがもの顔に暴れまわるので、その気まぐれからそれぞれの国の経済を守る何らかの手が打たれなければ、また同じ目にあわされる心配があることもはっきりしてきた。
まず東南アジアの国々が世界を駆けまわる投機資金の思惑によって一挙に通貨不安におちいったのは、短期資金を借りて長期投資をしていたからである。しかも借金の額が身分不相応に巨額で、さらにWTOの約束に沿っていつでも自国通貨を外貨に兌換できるシステムになっていたからでもあった。
そういう通貨不安のなかにあっても、海外から進出した企業は、一時的に市場を失ったり、生産がストップして、金繰りに困ったりすることはあっても、借入金や株式投資資金のように一目散に逃げだされてしまうということはなかった。むしろこれをチャンスに投資に力を入れたり、資金援助をする動きすら見られる。
ということは、今後、成長経済を再出発させようと思えば、まず第一にあまり借金に頼らないようにすることである。日本はその成長過程においてほとんど海外からの借り入れに依存しなかっただけでなく、外国企業の進出をシャットアウトすることさえした。後発のアジアの国々はその真似をするわけにはいかない。自国資本が形成されるのを待っていたら、いつになるかわからないからである。とすれば、借り入れはするがお金の出入りは制限するか、外資は導入するが借入金はルールを設けて制限するか、のどちらかを選ばなければならないことになる。
お金は臆病なもので、出入りを制限されればびっくりして近寄らなくなる。よほどお金の儲かるチャンスでもなければ、お金が縛られるためにわざわざやってくることはまずない。それにいまのようなボーダーレスの時代にお金の出入りに制限を加えることは、時代にマッチしたやり方とはいえない。とすれば、お金の出入りを自由にする代りにいつ逃げられても大丈夫なように手を打っておく必要がある。
そのためには、企業がなるべく資本を充実させて借入金を少なくすることである。そんなことはすぐにはできないことだというだろうけれども、そもそもテンポの速すぎたことが命取りになっているのだから、成長のテンポを落すことが望ましいのである。
また今回の衝撃でわかったことは、外資のうちでも実際に生産に投資されている企業は比較的外圧に強い構造にできていることである。海外にある本社が安泰であるかぎり、現地企業が困れば資金援助もしてくれるし、株を買い取ってくれることもある。国全体として見れば、会社が倒産して多数の失業者を出すよりも、外資が五〇%以上であろうと、一〇〇%であろうと、会社が自国内にあって、国内の雇用や外貨稼ぎに役立っているほうがずっと大切なのである。
そういう意味では、自国の既存の産業を守ることに主眼をおくよりも、世界で競争のできる体力をもった企業が国内にあることに力を入れるべきであろう。もし自国内の人たちにその利益を分け与えたいならば、これらの会社を国内で上場させて広く株主を公募させればいいのである。実際問題として大株主がどこの誰であろうと、世界が一つになっていく過程で、たいして問題にすべきことではないのである。
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