いま世界中に起っているグローバルな不況は過去の経済学の教科書に書いてあるようなものではないから、景気の過熟がなくとも、生産設備の過剰だけで景気が下降線に入る可能性は十分にあるのである。
おそらく日本は成熟化社会にふさわしい消費奨励策を積極的にすすめると同時に、アジアの成長を再び軌道に乗せるための資金と技術を提供することによって、自国の経済を立て直す方向に向うだろう。
しかし、東南アジアの国々が痛い目にあってはじめて気づいたように、もう一度陣営の立て直しをするにあたって、アメリカがつくり出した膨大な投機資金を使って経済の建設をやる気はしないだろうし、またアメリカの自国の都合で激しく動くドルを仲介にしてアジアの時代を推進していくことには不安を感ずるだろう。
ヨーロッパではすでにEU(欧州連合)の通貨が誕生する方向にあり、それがうまく成功するかどうかは未知数としても、少なくともヨーロッパ中がドルとは別の統一通貨の出現の必要性を痛感していることは確かである。アジアにはまだその兆しは見えず、通貨不安になると逆にアジア中の人々がドルを求めて両替屋に走るが、その結果はまたドルの大波をかぶってふりまわされることになる。
どこかでこのしがらみをたち切る必要があるから、ドルに代る通貨の誕生が望ましいが、いまのところ財政も貿易収支も健全な状態にある通貨はアジアには見当らない。とすれば当分はこのままドルを使うよりほかないが、「そこのけそこのけ、ドル様のお通りだ」と無条件にIMFのいうとおりにやるというわけにはいかない。
IMFは通貨不安の国々の急場を救うために緊急のドルを融資する代りに、財政の緊縮や外資導入に対する規制の緩和を要求している。そのなかにはいままで外国資本の参加を制限してきた業種や企業の買収や外資の参入も含まれている。援肋を受ける国々の人にしてみれば、火事場を利用して国の宝物を安く叩いて買おうという魂胆に見える。これでは、通貨不安を機に無条件降伏を強いられたようなもので、そのぶんアジア中の反米意識が強くなることは避けられないだろう。
香港の新聞を見ていたら、IMFとは、アイ・アム・フォックスの略字で、「私は狐だ」という意味だそうである。この機会に大きく化かしてやろうというのだから、助けてもらう国がみな素直にいうことをきいてくれるわけがない。今後、再びドルを注ぎ込むにしても、ドルの通り道には交通信号を設けて交通整理をする必要があると思うのは私一人だけではあるまい。

(一九九八年一月三十日執筆、『Voice』九八年四月号発表)

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