内需拡大の究極の特効薬 "お金を使えば税金を負けてやる"という発想が必要
つくれば売れる時代は終った
(1998年5月11日執筆  『Voice』98年7月号発表)
物が売れなくなった。毎月発表されるデパートやスーパーの売上げを見ても、ここ二、三年ずっと前年比、低下の一途を辿っている。デパートやスーパーなどの日用品だけでなく、ひところ、回復に向ったかに見えた自動車の国内需要も頭打ちになったし、安売りの家電量販店も苦戦を強いられている。
これを不況のせいにするのが一般的な傾向だが、私は、少なくとも日本の場合は、成熟化社会になったことがもたらした構造変化だと見ている。むろん、不況に対する警戒心がもたらした節約ムードもある。
たとえば、企業の倒産や不良債権の大量発生によって、いつ失業がわが身に及ぶかわからないと心配する人や、クビにならないまでも昇給がとまったり、ボーナスが減ったりして収入の減少した人はどうしてもよけいな支出はさし控えるようになる。とりわけバブルの最中に億ションと呼ばれた投資物件をローンを組んで購入した中堅サラリーマンや中小企業主は、マンションの値下がりと借り手のないまま空室になって、借金のやりくりに追われているから、値嵩の耐久消費財への出費にはいっさい拒否反応を示すようになる。そういう節約ムードが不況を長期化させているという説明は、それなりの説得力をもっている。
しかし、まったく別の解釈もできないわけではない。皆が先行きを不安視してお金を使わなくなったというけれど、いま国民の大半は収人減に悩まされているわけではない。山一証券や北海道拓殖銀行が廃業整理されたり、多くの上場企業の業績が悪化して株価が下がったりということが続いているが、失業率は戦後最悪といっても三・六%台にすぎないし、職のある人たちの収入は減っていない。減っているのは物が売れないために儲けの減ってしまった会社と、金利がタダみたいに安くなったために利息に頼って生活をしてきた人々の収入くらいなものである。
金融資産千二百兆円の利回りを仮に年六%とすると、それだけで七十二兆円になる。それが○・五%に下がれば、たったの六兆円だから、金利だけで六十六兆円も収入不足におちいる。金融資産のすべてが金利を生むわけでもないし、また金利収入のすべてが消費にまわされるわけでもないが、金利の減収が金利に頼って生活している人たちに節約を強いていることは紛れもない事実であろう。
だから消費をふやすためなら、減税をするよりも金利を下げたほうが明らかに効果的である。しかし、そうすると金利負担に耐えかねて倒産する企業がふえると懸念されているが、いくら金利が安くても銀行が貸し渋りをやると企業がピンチにおちいることは同じだから、金利安が企業を倒産から救う万能薬とはいえないだろう。
そんなことよりは消費を刺激することのほうが先決だから、景気をよくするためなら、使えるお金をふやしてやるために減税をすればよいという古典的な政策がいまもなお信仰されている。しかし、国民の大半が毎月受け取っている給与所得が減っているわけではないのに、消費は冷え切っているのだから、所得税減税をして手取り収入を少々ふやしてやったからといって、その分だけ消費がふえることは期待できない。むしろ減税をした分だけ貯蓄にまわる分がふえるだけのことで、消費の減退を食い止めることはできないと考えたほうが正解であろう。
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