みんなで大損して再出発 円安放置とアジア危機で米国株価の大暴落が始まる
百兆円刷れば不良債権は片づく
(1998年8月3日執筆  『Voice』98年10月号発表)
いま日本は世界中から注目を浴びている。どうしてかというと、日本の動向次第でアジア中が再び通貨不安を深刻化させ、それがヨーロッパやアメリカにまで波及して、世界中が一九二九年の大恐慌以来、ずっと経験したことのない大ピンチにおちいる可能性があるからである。そういうさなかで小渕内閣が誕生したが、難しい時期だけに、期待より不安が先行し、週刊誌などの見出しを見ても、まだ何もやらないうちから無能呼ばわりをする世論が横行している。
かつて田中内閣が誕生したとき、ちょうどこれと逆に絶大な人気と期待が新聞紙面を埋めつくしたことがあった。私はテレビに出演して、「こういう形で始まるのはあまりよくありませんね」と自分の感想を述べたことがあるが、前人気が高かった分だけ、しばらくすると期待が失望に変り、田中内閣は総理自身の金脈問題にまで発展して瓦解してしまった。そういう意味ではボンクラだ、鈍牛だ、から始まったほうが安全性は高いが、だからといって経済危機から日本を救う歴史的な業績を残せるかどうかは、実際に結果をみなければ何ともいえない。
小渕さんは私が見ても、けっして経済に明るい人とはいえないが、それは経済閣僚にランクされている人々も含めて、いまの日本の政治家に共通した欠点であろう。私にいわせれば、知恵のない人は知恵のある人の知恵を借りればいいのだし、経済に明るくない人は経済に明るい人の力を借りればいい。ただし、思い切った改革をしようと思えば、どうしても既成勢力から猛烈な反対が出る。いまの日本でいえば政界派閥と官僚がさまざまな形で足を引っ張るから、まずそのへんのバランスをうまくとって摩擦をできるだけ最小にとどめる必要がある。
その点については小渕さんは気配りの大家だから、相も変らず派閥均衡を主眼とした内閣と見られたとしても仕方がない。
そうした重荷を担いだまま、うまく不良債権の処理ができるかどうか、また内需の拡大ができるかどうかが今後の腕の見せ所であろう。したがって、ほぼ最終段階にきた今次大不況から日本を立ち直らせる歴史的な名宰相になれるか、それとも派閥と官僚制にがんじがらめにされて自民党最後の内閣に終るかは、これからお手並み拝見ということになる。
実際そのどちらにもなる可能性があるから、もしここで小渕さんが橋本さんと大して代り映えのしない政策をとれば、日本は世界的大不況の震源地と見なされ、アジア全体が再び金融不安に見舞われるだけでなく、日本もかなりの損傷を受けて自民党が政府与党の立場を失うことも考えられる。現に政界の再編成もそういう場面を予想に入れた段階にまで進んでいる。
しかし別の角度から見れば、いまはバブルが絶頂期を越えてからすでに八年が過ぎており、逆にほとんど底に足の届く時期に来ている。日本経済がこうなるまで放置しておくことはなかったと思うが、結果からみると、成長期の日本丸の船長や機関手をつとめてきた政治家や官僚たちに成熟期の舵取りはできなかったということであろう。
タイタニック号ではないが、とうとう暗礁に乗り上げる寸前まで来てしまった。そして、いよいよ難破するかどうかというところで、ようやく救難作業がはじまったが、ここは海の底が見えてしまった半面、潮の流れが干潮から満潮に変る時期でもある。そういう時期にぶつかっているだけに、これから二年のあいだにうまく船体を浮揚させることに成功すれば、二十一世紀に対して扉をひらいた名宰相ということになる。
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