内需拡大は地価と株価の手直しから
(1998年8月3日執筆  『Voice』98年10月号発表)
日本人には自分たちの国が経済大国だという意識があまりない。ついこのあいだまで皆がピーピーしていたし、いまも経済不況で倒産しかかっている。だから経済大国としての義務をはたせといわれても、目をパチクリさせるばかりで、何が義務なのかもよくわからないし、どんなことをやればいいのかもわからない。
しかし、敗戦から立ち直って五十年、勤勉と創意工夫で日本人はアメリカに次ぐ世界の経済大国にのしあがった。世界一の外貨準備を擁するようになったし、一人当りの所得もドルに換算するとアメリカを凌ぐようになった。人口一億二千万に対して七千万台自動車があるようになったし、軍事費もソ連の凋落によって世界第二位にのしあがった。日銀だけでもアメリカの国債を二千三百億ドルも買っているし、日本のこれという大企業はすべて世界中に進出して多国籍企業になっている。自慢にはならないが、韓国や東南アジアに融資して焦げついている資金だって一千億ドルは下らないだろう。
これだけの資産をもつようになれば、自分はそう思わなくとも、日本は世界の大金持ちである。では大金持ちなのに、どうしてお金に困っているかというと、デフレによってお金持ちが損をする番になっているから、お金をもっている者ほど困っているのである。東南アジアで指折り数えられる華僑の大富豪たちの最近の苦境ぶりを見ればよい。
インドネシアでいちばんの大金持ちといわれたサリム・グループのオーナー林紹良はスハルトの下野と前後して、その中核企業であるバンク・セントラル・アジアは取りつけ騒ぎにあい、そのあと政府の監督下に入ってしまった。私邸は焼き打ちにあったし、傘下の系列企業は巨額の外貨借り入れで四苦八苦している。クリントンに不正献金をしたかどで長男が疑惑の渦中にあるリッポー銀行のモフタル・リアディ(李文正)は私も面識のある人だが、傘下の銀行の支店は十六店も焼き打ちにあい、関連企業のデパートも六店舗が焼き打ちと強奪にあっている。
タイでは最大の華人企業であるCP(ほんとうはチャロン・ポカパンというのだが、飼料産業で財をなしたので、私たちはチキン・アンド・ピッグと呼んでいる)も、バーツの大暴落で屋台骨が傾き、海外事業の総括をしている香港子会社は社債の償還ができなかった。中国に展開した二百に及ぶ関連会社もいまは整理売却の段階にあるという。同じことが香港の名立たる財閥のあいだにも起っている。
日本の場合は、華僑資本と違って大半が社会資本による会社組織になっていて、稼ぐときも損をするときも会社が矢面に立っている。個人として損をするのは、日本では株が下がるとか、もっている不動産が値下がりするとかいった程度のことで、不良債権や損失については銀行とか会社が堤防の役割をはたしてくれている。それでもよその国の庶民に比べると日本人が大金持ちになったことには変りはないから、バブルに踊らされて被害を受けると消費が減退するようになり、それが会社の決算にひびき、会社が財布の紐を締めたり従業員の整理をしたりするようになった。日本の場合、華僑の人たちが不況のパンチをもろにかぶるのと違って、あいだに会社という緩衝地帯があるので、五年前に気づくべきことをいまごろになってやっと実感するという大きなタイムラグがある。
戦後何回もあったリセッションは長くて二年で終ったので、不況を失業とか倒産として実感するまでには至らないことが多かった。それが今次はすでに八年にも及んでいるから、ついに失業率も戦後最悪の状態になり、年とともに浸透した節約ムードが産業界全体を衰退させるまでになった。このまま推移すると、日本は輸出で稼ぐことだけで息をつき、輸入は必要最低限の食糧や原材料だけに限られてしまいかねない。
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