鉄道の教訓
では、何の抵抗もなしに、大半の労働者が工場現場から追い出されてしまうのであろうか。
一体、追われた労働者は失業してそのまま家に引っ込んでしまうのだろうか。もし日本の社会制度が、かつての英国や現在のアメリカのような仕組みにできていたら、「お前は明日からもう来ないでもよろしい」ということでおしまいになるかもしれない。そうすれば、産業革命時代にイギリスで、労働者が機械を叩きこわしたような光景が再現することも充分に考えられるであろう。少なくとも欧米先進国で、無人化工場を採用する過程で、かなり深刻な社会問題が発生し、政治問題化する可能性は強いといってよいだろう。
しかし、新しい生産手段が発明されると、たとえどんな強い抵抗があっても、人類は結局、それを受け入れ、それを上手に使いこなすようになる。歴史を読めば、それを上手に使いこなした人々が財をなし、それを受け入れた国が繁栄していることがわかる。
たとえば、かつて日本に鉄道が導入された時、鉄道の幹線がとおることに対して、賛成した町と反対した町があった。反対した町は駕籠や人力車が商売を失い、また宿屋に泊る人がなくなることをおそれたためであった。やむを得ず、鉄道はそれらの町を避けてレールを敷いたが、その結果は、沿線になった小さな町に人口が集中して大きな市となり、大きな宿場は商売がなくなって次第にさびれて行った。
そういう現実を私たちはすでに一世紀も前に体験している。にもかかわらず、飛行機という新しい交通手段が出現すると、やっぱり同じように反対する者が現われる。反対する人間は、たいてい、現状の維持から出発する。未来を考えずに現状から出発するから、本質的に保守的性格を持っているが、不思議なことにそういう人に限って、革新的な蓑を着ている。飛行場の爆音で教室の先生の声がきこえないとか、鶏が驚いて卵を生まなくなったとか、マイナス面を強調するばかりで、飛行場が拡張されることによって、人が集まり商売が繁盛するメリットには目を覆い、耳をふさいでしまうのである。
その点さすがに実利主義者の集まっている香港には、飛行場の拡張に反対する人は一人も見当たらない。香港は土地が狭くて他に代替地を見つけるのが困難であるという事情もあるが、飛行機が入らなければ、土地が栄えないことは子供でも知っている。もともと中継貿易で繁栄した港であり、今でも大陸貿易と東南アジア貿易のカナメのような位置にある。だから狭い土地の大半を占めている山を削ってでもコンテナ・ヤードをつくったりしているが、荷物は船で入ってきても、人は飛行機で入ってくる。そうした旅行者が世界中から集まるようにしなければ、香港の繁栄はあり得ないから、飛行場を海に伸ばすといえば、ぜひ、伸ばして下さいということになるし、飛行機が滑走路に下りる時も上がる時も、街の真中の住宅地帯の真上をとおるが、「うるさいぞ」と空に向かって怒鳴る人は皆無なのである。
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