金を借りるときは誰も返せなくなるとは思っていないから、約定書の中味をいちいち検討する人なんかいない。返せなくなれば、担保を取られるのが当たり前と誰しも思っているし、そういう異議を唱えれば、そもそも金を貸してもらえるわけがない。だから誰も約定書なんか見ないでサインをする。銀行がそうあこぎな条件をつけるわけがない、と安心しているような面もある。
かくいう私も、銀行の約定書にずいぶんたくさんハンコを押してきたが、条文を丹念に読んだことは一度もない。
しかし、万一、払うと約束して振り出した約束手形の期日にもし払う金の用意ができなかったら、どういう目にあわされるかは誰でもよく知っている。不渡りを出すと、その会社に品物を納入している取引先がすぐ乗り込んできて、代金をまだ払っていない納入品を運んで帰るし、なかには他社の製品までカタにとったつもりで持ち去る図々しい奴もある。
あるとき私は、台湾の工場でつくった礼服二〇〇〇着を知合いの洋服屋に預けておいたところ、その洋服屋が倒産して礼服を債権者に運び去られてしまったことがあった。私は、あれは私が預けておいたものだから返してくれ、と債権者にいったが、いや、あれはうちが債権の代償として預かったものだからと頑張られ、とうとう返してもらえなかったことがある。
だから、物を手形で売る商売は、売った先の財務状態にたえず細心の注意を払う必要があり、ちょっとでもおかしいと思ったら、取引きをストップするか、回収を早くするか、適切な対策をしなければならないが、仕入れをしているほうも、いったん不渡りを出すと、その日のうちに倉庫の中をカラッポにされてしまう。上場をしているような大会社になれば、そうした商品の引き揚げを防ぐために、会杜更生法の適用を裁判所に申請することができるが、中以下の企業になれば会社更正法もヘチマもないから、いっぺん不渡りを出すと、会社の機能は完全に麻痺してしまい、債権者会議に引っ張り出されたり、裁判所に出頭させられたり、倒産後、少なくとも二年間は後ろ向きの始末に追われ、暗い毎日を送ることになってしまうのである。
だから商売がうまく行かなくなって、金ぐりに追われるようになったあとも、経営者は何とかして不渡りを避けようとして努力する。
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