ところが森脇文庫は出版社であり、出版社に物書きが訪ねて来てそこにある本を全部買うというのに、少しのためらいもなく私から定価で代金をとったのである。さすがさすが、と内心、舌を巻きながら、私はお金を払った記憶がある。
もう一つは、通された応接間、といっても森脇氏の社長室であるが、その正面に大きな神棚があって、なかに入ってきた森脇氏は私の見ている前で、大きな柏手を打って一心不乱に拝んでから、私に、「よくいらっしゃいました」と挨拶した。私は、高利貸というのはあこぎな商売だから、文字通りの「金権魔者」であると単純に思い込んでいたが、高利貸にも神様が必要で、普通の人以上に神様にすがっている姿を目のあたりに見せつけられたのだから、すっかり驚いてしまった。
「トイチといったような高い金利でも、お金を借りに来る人があるのですか?」
と私はきいた。
「私のところへ来るような人は、つなぎ資金を借りに来る人ですよ。あと十日たったら銀行の融資がおりるとか、売った品物の代金がもらえるとか、あるいは、さしあたって今日の手形をおとす金がどうしても必要だとか」
「でもそういう人は担保がなかったり、はたして本当のことをいっているかどうかも、わからないじゃないですか?」
「ですからその場で判断して、貸すか貸さないか即決します。うちの利息が高いといいますが、国鉄だって特急と急行と鈍行では料金が違うでしょう。うちはその場で貸しますから、特急料金になるのは当然ですよ」
「しかし、そういう金を借りに来る人は、倒産寸前まで追い込まれている人が多いんじゃありませんか。こげついて、回収できないことはありませんか?」
「そりゃありますとも。ですから金を貸すのにも勇気が要ります」
「ご自分のお金をお貸しになるのですか?」
「他人の金も動かしています。私は絶対の信用をもっていますから、何億円でも、電話一本ですぐに調達できます」
「すると、サヤを稼がれるわけですか?」
「私の責任で、私が貸したことにしています。もらった利息を誰に払ったかは、口が腐ってもいえません」
「お金がこげついたときはどうするのですか」
「金の返せなくなった人は、必ず、あと五〇〇〇万円あったらうまく行きますから、といって追加融資をたのんできます。一番大切なことは、そのときどう対処するかということです」
「高利貸で成功する方法は、どういうことだと考えていますか?」
「いっぺんこげついてしまった金を助けるために、どろ沼の中にはまり込まないように気をつけることです。同じところから取り返そうと考えないで、ほかのところで稼いで埋め合わせをすることです」
「すると、お金を貸すのもラクじゃありませんね」
「おっしゃる通りです」
頭が禿げあがり、眼がギョロリとして、見るからに海坊主のようなきつい形相の人であるが、私はなぜこの人が、神棚の前に立ってあんなに真剣に手を合わせたのか、わかるような気がした。
そういう人から金を借りて金が返せなくなり、逆に、高利貸をあしざまにいう人が多いが、高利貸の身になれば、こげつくかもしれない危険をおかして金を貸すのも、決してラクな商売ではないのである。
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