糸からデパートの店先までのこの一連のプロセスで、利益率の一番高いのは小売りの部分である。だから小売りの部分で値を崩さず大量販売できる人が、一番お金が儲かる。しかし世の中はうまくしたもので、この部分には競争者が多いし、小売りだけに一軒当たりの売上げはそんなに多くない。
そこで同じ繊維を扱う人の中でも利にさとい人たちは、商品企画をして製品としてできあがってくる部分を狙ってくる。むろん、この部分も劇甚な競争にさらされているが、この競争の中で常にヒット商品を創造して行くだけの能力を持っておれば、繊維産業の中の一番「おいしい部分」の分け前にあずかることができる。有名なデザイナーの名前を冠した川下メーカー、デザイナーの名前はないがおしゃれのメーカーとして確たる地位を築いたメーカーは、一番「おいしい」部分だけでなく、銀座や青山や原宿に直販の小売店を兼営して、二番目に「おいしい部分」も同時に掬いあげようとする。これが繊維産業の中における攻める側であり、他の部分は攻められる側といってよいのであるまいか。
攻める側の繊維メーカーは消費者の動向に常に神経をとがらせている。婦人服などは流行による変化のもっとも激しいところであるから、ちょっと間違えると滞貨の山になって、俗に一ガケ(上代の一割の値段)でも引き取り手がないという目にあわされる。しかしそういうきびしい競争にさらされているだけに、臨戦体制ができており、意外に倒産は少ない。よく新聞に出てくる繊維業者の倒産は、たいていは攻められる側の古い体質の繊維業者である。
こういう目で見ると、ひとり繊維業者だけでなく、他のすべての業界でも、攻める側と攻められる側の色分けがかなりはっきりしている。街の子供柵手の駄菓子屋はケーキ屋に攻めたてられて次第に姿を消してしまった。そういう駄菓子屋相手の森永、明治に昔日の面影はなく、あわてて直販のコーヒー・ショップやレストランをつくっているが、新興のチェーン店にすらたちうちできないでいる。
またテーラーと呼ばれる洋服の仕立屋は、既製服メーカーに追いまくられて、一軒一軒と姿を消し、わずかに既製服の着られないそれぞれ体格の違う熟年相手の高級席ということで生き残っていたが、近年は熟年向きの既製服もふえてきたし、一方、仕立てについての研究が既製服メーカーに遠く及ばないので、ますます衰落の一途を辿っている。デパートの中の仕立服売場の超閑散なのを見ても、この傾向がよくわかる。
その半面、デパートの売場の中で展覧会場や講演会場が目立って人を集めるようになった。
家具売場よりは植木売場のほうが人だかりがしている。和服売場よりは古道具屋のほうが人気を博している。
デパートなら、人気のあるほうへより多く売場面積を拡げて行けばよいが、小売屋はそのうちのどれか一つしか物を扱っていないから、デパートのようなわけには行かない。
したがって小さな商売に従事している人は、もし自分が攻め立てられる側にいることに気づいたら、店じまいの時期は近づきつつあると覚悟しておいたほうがいいだろう。
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