家より「家を買える能力」が財産
だから、私は事業がピンチにおちたと気づいたら、まだ足元の明るいうちに足を洗うのが肝心だと思っている。しかし、そういうときは気も顛倒しているというのが本当だから、前後の見境いもつかなくやっている人が多い。
私たちの仲間で中小企業のアドバイザーをしている友人の一人が商売に手を出した。他人に「金儲けはこうしたらよろしい」と教えるくらいだから自分でやればうまく行きそうなものであるが、これがなかなかそうは行かない。
私だって成功した例よりは失敗した例のほうが多い。たまたま成功した分が私に財産をもたらし、その財産を元手にすれば少々の損には耐えられるから何とかもっているだけのことである。それに私はきびしい制限を自らに課して、「工場や店の敷地建物は必ず自分で買う」「手形は絶対切らない」「損がいくらに達したか、また年月を区切ってその年月がすぎてもいっこうに予定のラインに到達しなければ、廃業してしまう」ときびしく規制をしているから、致命傷になる一歩手前で踏みとどまることができているのである。
そういう自制心の働かない人で、新聞記者上がりとか証券セールスマン上がリが実業に乗り出したりしたのでは、たいてい失敗をするから、私は相談を受けるとなるべく自重をうながすことにしている。しかし、そういう人に限ってスポンサーもいるし、銀行も金を貸してくれたりするから、つい深入りしてしまう。
私のその友人は、流通革命に興味をもち、訪問販売や小売業者の組織化について本なども書いた。私から見ると、そういうやり方は理論的には成り立ってもいざ実行するとなると、腕ききのセールスマンが不足するし、経費倒れになってしまう。だから企業化することには、極力、反対意見を述べたが、友人は仲間たちのおだてに乗って店びらきをし、あっという間に手形と駆けっくらのピンチにおちいってしまった。
私は、資金の援助を申し込まれたがお断わりをした。さきにも述べたように、金繰りに追われるようになると、高利貸の金に頼るようになるし、手形をおとすためにまた平気で手形を書くようになる。見る間に借金が雪だるまのようにふくれあがって、少々くらいのお金では収拾がつかなくなってしまう。だから同じ援助をするなら、不渡りを出して誰も相手にしなくなってからのほうがよいと思ったのである。
私が断わると、その友人は私の別の友人たちのところへ借金の申し込みに行った。心配をした友人が三人ばかり集まって、本人から事情をきくことになった。一切包みかくさずに、本当のことをいうようにといったら、本人はカバンの中から一件書類を取り出してくわしい説明をした。
もうすでに自宅は担保に入り、ギリギリ銀行から借りられるだけ借りていて、毎月の利息と返済に追われている。事務所の事業を肩代わりしてくれる人がいて、手形の一部をその人が引き受けてくれるという。数字とつきあわせて首っぴきをしたら、一〇〇〇万円くらいあれば何とか不渡りを出さないで切り抜けられるのではないか、と私は判断した。しかしその前提として、どうしても一回はハダカにならなければいけない。
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