「不渡りになると、債権者にドッと押しかけられる心配はないのですか?」
と私はきいた。
「いえ、手形を発行しているのは下請けの修理工場だけですから、話し合いができると思います。あとは親戚と銀行だけですから」
「銀行には何か担保が入っているのですか?」
「金融公庫は保証協会だけですが、銀行には妻の名義の土地が担保に入っています」
「ほかに高利貸から金を借りているとか、融通手形を出しているとか……」
「それだけはまだやっていません。高利貸の金に手がつく前にやめたいという決心は、以前からしておりますので……」
「それがよろしいですよ。高利貸から金を借りて、一時、息をついても、どうせ行きつく先は見えているのですから、その前に頭を下げなければならないところは下げてしまうことですね」
「何とか立ち直るチャンスはないかと思って株をやってみたのですが、なかなかうまく行きませんね」
きいてみると、七〇〇万円ばかり保証金を積んで信用売買をさかんにやっているという。株の信用売買で財をなす人はほとんどいないことについては、私は自分の著書の中でも述べているが、平常心を失い、焦っている人にはそんな助言などまったく耳に入らないのである。
「株は職業としてやるべきものではありませんよ」
と私はいった。
「私だって何年に一度か、相場を張るような株の買い方をすることはありますが、それでも株で生活ができる自信はありませんね。まして、今のような相場つきのときに信用でサヤを取れるなんて、そんなこと考えないで下さい」
「やっぱりそうですかね」
「そんなのんきなことをいっているときじゃありませんよ。グズグズしているうちに、証券会社に入れてある七〇〇万円もみな無くなってしまいます。いま片をつけると、いくらか返ってくるのですか?」
「いまなら五〇〇万円くらいは返ってきます」
「じゃ、悪いことはいわないから、株の信用はやめておいたほうがよいですね」
「私もそうしようと思いはじめたところですが、問題はそのお金でどうするか、ということなんです。女房は、あんたの商売は先行き見込みがないから、私が中学校のそばで子供相手の文房具屋やプラモデル屋をやろうといってくれますが、その点はどうでしょうか?」
「どこか適当をところでもあるのですか?」
「いや、これから探そうかと思っています」
「これから探して五〇〇万円で店びらきをして、親子四人の生活を支えて行くことはとてもできませんよ。奥さんにそんな自信がありますか?」
そばできいていた奥さんは、さも自信なさそうに首を横に振った。
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