不況とは人と金の移動現象
第二ビルの一階が、前も後も空家になってしまったのを見て、第一ビルの一階でファッション商売に成功した人が、私を訪ねてきて、
「あそこで、セルフサービスのカフェテリアをやりたいと思うが、どうでしょうか?」
と相談をもちかけてきた。
この人はすでに第一ビルで成功した実績もあるが、成功の要因はと見ると、絶えず時代の動きに気をつけて、次から次へと新商品に切りかえている。季節がすぎそうになると、バーゲンをやって在庫の一掃をはかるし、店のつくりにあきがくると、店を一カ月も閉めて全店を改装するという思いきった展開をしている。台湾でドンクやアンデルセンのようなパン屋をひらけばよいというのは、十年前からの私の考えであったが、新しい高級住宅街に支店を出すときに、この人は日本から技術導入してすでにパン屋もひらいて、ファッションの店とパン屋を両立させている。
これだけのセンスを持った人なら、カフェテリアをつくってもおそらく要領は得ているだろうから、私はすぐに承知をし、パン屋のほかにケーキ屋をつくることもすすめ、技術指導に来てくれる人の世話までしてあげた。本人はすぐに日本に飛んで、飲食店専門のデザイナーに設計を依頼し、またキッチンの機器一式を発注して、約三カ月がかりで開業にこぎつけた。
できあがった店を見て、私はメニューの値段のつけ方に多少注文をつけただけで、
「この調子なら、三カ月であなたの目標の売上げに達するでしょう。うまく行きますよ」
と太鼓判を押した。新聞に一行の広告さえしなかったが、店の前に立っただけで何となく入りたくなってくる店だから、きっと大丈夫だろうと思った。
一個二十五元のケーキは台湾の人たちの常識では高すぎるし、セルフサービスで自分のお盆にとる料理にしても、台湾の人たちは大食いだし、テーブル一杯の皿数になれているから、ちょっとよけいに注文しただけでたちまち三〇〇元に達してしまう。「高い高い。こんな高いお金を払う人がおるもんか?」と文句をいうのを小耳にはさんだことが何回もあるが、日本人やアメリカ人がまず常連になり、本当に三カ月もすると、予定のラインを突破し、六カ月目になると、一年後の予定を五割もオーバーする売上げに達した。
不況のただ中での大繁盛だから、台湾の商売人たちが手を拱いて眺めているわけがない。ちゃんとした商売人まで、物差しをもって店にのり込み、お客のふりをしながらテーブルやイスの高さまで測っている。かつて大型コーヒー店をつくったときと同じことであり、おそらく半年を出ずして、何十軒ものカフェテリアが誕生するだろう。
彼らのやり方は、見様見真似で似たようなものをつくる。似ているけれども「仏つくって魂入れず」であるから、どこか手抜きをするし、客寄せのために安値で勝負をかけてくる。しかし、何十軒できようと、ファッションの店でなお先端をきっているのは二軒にすぎないように、この中から残るのは二社か、せいぜい三社だろうと私は見ている。
カフェテリアがハヤると、どこからともなく若い人たちが湧き出してきて、「台湾にこれだけ若い人がいるのか」と驚くほどゾクゾク集まる。はじめは昼食のときだけ人が並んでいたのが、夕食も並ぶようになり、しばらくして台北へ行って見ると、午後二時から六時までの間も、コーヒーを持ってあいたテーブルをさがすのに苦労するようになってしまった。
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